日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS16] 古気候・古海洋変動

2021年6月5日(土) 10:45 〜 12:15 Ch.26 (Zoom会場26)

コンビーナ:岡崎 裕典(九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)、長谷川 精(高知大学理工学部)、山崎 敦子(九州大学大学院理学研究院)、山本 彬友(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、座長:長谷川 精(高知大学理工学部)

11:30 〜 11:45

[MIS16-20] 米国グリーンリバー湖成層に記録される始新世前期~中期(52.7‒43.8 Ma)の全球気候変動を反映した陸域環境変動

*隈 隆成1、長谷川 精2、山本 鋼志1、Whiteside Jessica3、Elson Amy3、吉田 英一1、三村 耕一1 (1.名古屋大学、2.高知大学、3.サウサンプトン大学)

キーワード:湖成層、始新世、温室期、古気候、炭素循環、ミランコビッチサイクル

現在よりも温暖な過去の地質時代“温室期”の代表例である始新世前期は,大気CO2濃度が約1000 ppmに達し,新生代を通して最も温暖な時期(Early Eocene Climatic Optimum: EECO)として知られている.この“温室期”の陸域環境に関して多くの研究がなされてきが,陸成層記録が少ないため,この時期の陸域気候変動についてはよくわかってない.本研究では,EECOの前後を含む約900万年間の地質時代にわたって湖で堆積したユタ州北部のグリーンリバー層を調査対象地域とした.対象地域の露頭調査による10 cmスケールでの堆積相解析と,約2万年以下の時間解像度で採取した試料(662個)の主要元素分析と鉱物分析により,数万年から数百万年スケールの古環境変動を復元した.
堆積相解析の結果,対象セクションは約1000 mの層厚に達し,湖環境は下位より9つの特徴的なステージに区分されることが明らかになった.対象地域の下部は「河川と浅い湖の環境」と「深い湖環境」に区分され,湿潤環境であったことが明らかになった.上部は「浅い湖環境」,「蒸発卓越環境」,「湖水位が変動する環境」に区分され,乾燥環境になったことが示された.最上部は「河川と浅い湖の環境」に区分され,再び湿潤な環境へと変化したことが明らかになった.以上の長期的な環境変動に加えて,約40万年の周期性も詳細な堆積相解析により検出され,地球軌道要素変動に伴う日射量変動が本地域の降水量変化に影響したことが示唆された.また,主要元素分析の結果,Ca/Al,Na/Al,Mn/Feは「蒸発卓越環境」で高い値を示した.K/Alは「河川と湖の環境」と「深い湖環境」で低い値,「蒸発卓越環境」で高い値を示した.鉱物分析の結果,「河川と浅い湖の環境」と「深い湖環境」でカオリナイトが検出され,「浅い湖環境」でスメクタイトやサニディンが検出された.「蒸発卓越環境」ではこれらの風化粘土鉱物は検出されなかった.以上のことから,グリーンリバー層下部は降水量が多く化学風化が進んだ湿潤気候が卓越した環境であり,上部は降水量が減少し,化学風化が減少した乾燥気候が卓越した環境であることが示唆された.グリーンリバー層には,始新世前期~中期における海水準変動や底生有孔虫の炭素同位体比変動との対応関係も見られ,全球気候変動に対する中緯度陸域の環境応答が詳細に記録されていることが明らかになった.