日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-IS ジョイント

[M-IS21] 化学合成生態系と泥火山:流体噴出の生物・化学・物理プロセス

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.25 (Zoom会場25)

コンビーナ:宮嶋 佑典(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)、井尻 暁(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、土岐 知弘(琉球大学理学部)、座長:宮嶋 佑典(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ)、渡部 裕美(海洋研究開発機構)

10:45 〜 11:00

[MIS21-01] 種子島沖海底泥火山から採取された噴出堆積物の特徴と起源

*瀬戸口 亮眞1、井尻 暁2、山形 武靖3、松崎 浩之3、萩野 恭子1、芦 寿一郎4、村山 雅史1 (1.高知大学、2.海洋研究開発機構、3.東京大学総合研究博物館、4.東京大学大気海洋研究所)


キーワード:泥火山、海底泥火山、メタンガス、粘土鉱物

世界各地の大陸縁辺域に分布する泥火山は,地下深部にある高間隙水圧を持った堆積物が上昇し,海底表層または地表に噴出した地形である.地下深部の物質を地表に運び,放出する役割を果たしている(Kopf, 2002).特に,泥火山によるメタンの放出は,大気・海洋への主要な供給源の一つとなっている.日本近海では,南海トラフ沿いに位置する紀伊半島沖熊野海盆と種子島沖に広く分布が確認されている.熊野海盆泥火山群では,種子島沖に比べて研究例が多く,ガスや堆積物の分析から噴出メカニズムについて推定された(Ijiri et al., 2018ほか).種子島沖の泥火山は,これまでの海底調査から15個確認されており,MV#1~#15まで番号がつけられている.本研究では,学術研究船「白鳳丸」KH-15-2次航海とKH-19-5次航海で採取されたMV#1(30o53´N, 131o46´E),MV#2(30o55´N, 131o50´E),MV#3(31o03´N, 131o41´E),MV#14(30o11´N, 131o23´E)の堆積物コアを用いて,堆積物の特性と炭化水素ガスの起源などについて調べた.堆積物コアは,X線CTによる内部構造観察,加速器質量分析器を用いた10Be年代測定,石灰質ナノ化石による微化石年代,XRDによる鉱物組成分析,粘土鉱物組成比から堆積物の温度履歴を推定した.また,炭化水素ガスは,メタン/エタン比(C1/C2),メタンガスの炭素同位体比からその生成起源を推定した.MV#1,MV#2,MV#3の堆積物コアは,全体に多くの泥礫を含み,現世堆積物の被覆がみとめられず,現在も活発に活動している泥火山であると考えられる.一方MV#14は,表層に第四紀の堆積物が被覆しており,現在は活動を休止している泥火山であると考えられる.MV#2,MV#3の微化石年代と10Be年代結果は整合的であり,中期中新世以降を示した.種子島周辺には,古第三紀の四万十帯が分布しているが(Ujiie et al., 2000),これらの泥火山堆積物の起源は,四万十帯より上位の堆積層由来であると考えられる.堆積物の鉱物組成は,全体的に石英,イライト,長石を多く含み,それぞれの泥火山による違いは見られなかった.粘土鉱物はイライトに富んでおり,スメクタイトからイライトへの脱水反応が起きる60~160 ℃を経験していると考えられる.粘土鉱物組成では,泥火山による違いが見られ,MV#1では,イライト/スメクタイト混合層が検出できたが,MV#2,3,14,では検出できなかった.MV#1では,回折パターンから見積もったイライト/スメクタイト混合層中のイライト含有量は42~45%であり,イライト化の初期段階を示すことから,堆積物は約60~100 ℃を経験していると推定される.一方,MV#2,3,14ではMV#1より高温を経験しており,スメクタイトからイライトへと変質が進み,イライト/スメクタイト混合層のピークが検出できなかったと考えられる.現在も活動していると考えられるMV#1,MV#2,MV#3のメタンの炭素同位体比は-42 ~ -57‰,C1/C2比は30~50であり,熱分解起源メタンの特徴を示し,より深部で生成したメタンが海底面まで運ばれてきたことを示す.一方,活動を休止していると考えられるMV#14は,炭素同位体比は-57 ~ -77‰,C1/C2比は700~4000であり,微生物起源メタンの特徴を示した.この結果から,MV#14では泥火山の表層付近で,微生物による二次的なメタン生成が起きていたと考えられる.この海域で観測されている地温勾配(25~50 oC/km)をもとに,熱分解ガスの生成条件 (> 80 oC)や堆積物の温度履歴を考慮すると,泥火山の噴出堆積物や炭化水素ガスは,海底下1.5 km以深から上昇してきたと考えられる.

引用文献

Kopf (2002) Rev. Geophys., 40, 1005, doi: 10.1029/2000RG000093

Ijiri et al., (2018) Geosciences, 8, 220

Ujiie et al., (2000) Marine Geology, 163, 149–167