日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[M-IS27] 歴史学×地球惑星科学

2021年6月6日(日) 15:30 〜 17:00 Ch.16 (Zoom会場16)

コンビーナ:加納 靖之(東京大学地震研究所)、磯部 洋明(京都市立芸術大学美術学部)、芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、岩橋 清美(国文学研究資料館)、座長:芳村 圭(東京大学生産技術研究所)、玉澤 春史(京都市立芸術大学)

15:30 〜 16:00

[MIS27-05] 歴史GISの成果とその応用可能性:古地図研究と地域貢献

★招待講演

*塚本 章宏1 (1.徳島大学)

キーワード:歴史GIS、古地図、応用可能性、地域学習

1.はじめに
 Geographic Information Systems (以下;GIS) が得意とするデータ管理や空間解析の機能を過去の空間や史料の分析に援用する研究は、「歴史GIS(Historical GIS)」という新たな学術分野として世界的に定着しつつある。歴史GIS研究は、世界各国の博物館や資料館において、歴史資料のデジタルアーカイブがインターネットを介して公開されることが一般的になりつつあった2000年前後から、その動向と連動するように欧米を中心に成果が公表され始める。
 本報告では、デジタルアーカイブやGIS技術の普及に伴い蓄積された歴史GISの成果を概観しつつ、それらの成果と応用可能性について展望してみたい。具体的には、古地図に関するGIS研究の成果と、その成果を地域学習へと応用した事例を紹介しながら議論を進める。

2.歴史GISの成果
 本報告では、歴史GIS研究のなかでも、とりわけ古地図を対象とした研究成果について取り上げる。まず、歴史GIS研究の成果には、古地図を含むデジタル化された歴史資料を公開するためのプラットフォームを構築することを目的とした成果が挙げられる。例えば、英国のポーツマス大学主導の過去の地図・統計データを統合した「A Vision of Britain Through Time」や、オープンソースを用いて構築された古地図ポータルサイトである「Old Maps Online」などが代表的な成果である。これらは、オンラインマップを介して過去の統計情報や古地図を重ねて表示したり、地名や古地図を検索したりすることが可能である。2000年代初期において、こうしたオンライン上で、古地図を歴史地理情報と関連づけて膨大な資料を統合する歴史GISプロジェクトが世界的に進められた。デジタルアーカイブデータを閲覧・検索するためのプラットフォームが構築され、地図や地理情報のコンテンツが充実し、GISで古地図を分析するためのインフラが整備される。これに伴い、分析手法が蓄積され、歴史GIS研究は次の段階へと発展する。
 これまでに蓄積された分析のノウハウを活用して、過去のあらゆる現象についての地理的分布を扱う空間情報科学的な研究や、歴史的な背景を総合的に考察する地図史や歴史地理学の伝統的な研究においてGISが援用されるようになり、歴史GIS研究の高度化がみられた。それは、複数の古地図を対象に、それらに描かれた景観を経年的・多面的にGIS上で復原することで都市の構造や発展過程を分析したり、GISの計測機能を用いて当時の測量技術を明らかにするといった、既存研究に新たな知見を提供する研究成果が得られるようになってきた(平井ほか2014)。

3.歴史GISから地域学習へのアプローチ
 歴史GISのプロジェクトによって公開された古地図は、オンラインマップやアプリケーションを介して現在の地形と重ねわせて閲覧することができる。こうした成果を地域学習へ還元する取り組みもみられる。例えば、徳島城博物館「城下町とくしま歴史さんぽ」では、オンラインマップのシステム上で、古地図と現在の地図を切り替えながら閲覧することを可能にした地域学習コンテンツとして公開されている。多くの歴史資料、とりわけ空間情報を含む古地図は、オンラインマップに情報を統合することが比較的容易であるために、現在と過去との対比から地域を理解するためのツールとして有用である。さらに、近年の頻発する災害によって、発生した地域の地形や過去の災害にも関心が寄せられるようになってきた。こうした関心事について、歴史GISは最新の知見とツールで地域に還元することが望まれている。

4.おわりに
 本報告では、古地図のデジタルアーカイブとオンラインマップを統合したプロジェクトが歴史GIS研究の初期の代表的な成果として位置づけ、インフラが整備された近年では、伝統的な学問分野にも寄与する学術的な成果が得られ始めているとした。さらには、歴史GISの成果を応用して地域学習へと昇華する活動にまで発展しているのが現状のステージであると整理しておく。
 歴史GIS研究は、歴史に関わる多くの学問分野の一つでありながら、GISを主要な分析ツールとして、最新の科学技術を常に取り込むことができる稀有な学問分野である。そうした性質を有するために、隣接する学問分野への学術的な貢献のみに止まらず、地域への成果還元の取り組みまでも視野に入れた幅広い活躍が期待されている。

参考文献
・A Vision of Britain Through Time、 https://www.visionofbritain.org.uk/  2021年2月15日閲覧。
・Old Maps Online、https://www.oldmapsonline.org/ 2021年2月15日閲覧。
・平井松午・安里 進・渡辺 誠『近世測量絵図のGIS分析 ―その地域的展開―』、古今書院、2014年1月。
・徳島城博物館「城下町とくしま歴史さんぽ」、
https://www.city.tokushima.tokushima.jp/johaku/rekishisanpo.html 2021年2月15日閲覧。