日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT42] 地球化学の最前線

2021年6月3日(木) 10:45 〜 12:15 Ch.17 (Zoom会場17)

コンビーナ:飯塚 毅(東京大学)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、座長:角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、高橋 嘉夫(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)

10:45 〜 11:00

[MTT42-06] High resolution mass spectrometry analysis of alkaline copper oxide degradation products from insoluble organic matter in carbonaceous chondrite

*重中 美歩1、網本 智子1、薮田 ひかる1 (1.広島大学)


キーワード:炭素質隕石、不溶性有機物、アルカリ酸化銅分解、高分解能質量分析、小惑星

【序論】小惑星は初期地球に生命材料物質を供給した始原小天体の一つであると考えられている。有機物に富む小惑星に由来すると考えられており、炭素質コンドライト隕石中の有機物の大部分を占める酸不溶性有機物(Insoluble Organic Matter, IOM) は、多環式芳香族炭素からなるネットワークを脂肪族炭素が架橋し、種々の酸素含有官能基が結合した複雑な不定形高分子である。しかし、IOMの真の構造は未だ解明されていない。そこで本研究では、高分子中のエーテル結合を選択的に切断するアルカリ酸化銅分解法をIOMに施し、得られた分解生成物の精密質量から組成式を推定できる高分解能質量分析装置で分析することによって、IOMのより詳細な構造解明を目指した。

【実験】試料にはMurchison隕石(CM2)を用いた。この隕石粉末試料(676.1 mg)に対してHCl/HF法を用いてIOMを分離・精製した。得られたIOM 7.2 mgに酸化銅9.9 mg、2N NaOH水溶液2.5 ml、硫酸アンモニウム鉄(Ⅱ)六水和物1.2mgを加え、170℃で3時間加熱した。加熱後の試料溶液を中性に戻した後、分解生成物を酢酸エチルで抽出し、100μlに濃縮後、高分解能質量分析装置(LTQ Orbitrap XL)を用いて陰イオン、陽イオンモードでそれぞれ分析を行った。

【結果と考察】その結果、陰イオンモードで200種以上、陽イオンモードで約400種の分解生成物を検出した。そのうち118種の分解生成物が両イオンモードで共通して検出された。本研究で主要な分解生成物として検出されたm/z 165.01946(C8H6O4)、m/z 121.02982(C7H6O2)、m/z 181.01428(C8H6O5)、m/z 137.02463(C7H6O3)、m/z 209.00905(C9H6O6)は、Hayatsu et al. (1980)がマーチソン隕石中のIOMの主要なアルカリ酸化銅分解生成物として報告したBenzendicarboxylic acid、Benzoic acid、Hydroxybenzendicarboxylic acid、Hydroxybenzoic acid、Benzenetricarboxylic acidにそれぞれ相当すると推定された。その他、Hayatsu et al. (1980)で同定した22種の化合物に相当する精密質量が検出された。さらに、本研究で新規に検出された分解生成物の精密質量は約430種検出された。組成式が決定できるマススペクトルの内訳は、脂肪族カルボン酸類が95種類、1~3環までの芳香族カルボン酸・アルコール類が98種類、含窒素化合物は9種類、含硫黄化合物は15種類であった。また、本研究でジカルボン酸と推定される組成式の炭素数はC2~C15であり、これまで報告されていたよりも長い脂肪族鎖構造が芳香環ユニット間でエーテル結合をしている可能性が考えられる。このことは、従来考えられていたよりも炭素質コンドライト隕石のIOM構造が複雑であることを示す。本研究から、高質量分解能質量分析を新たに適用することによって、従来研究では区別できなかったIOM化学分解生成物の組成式を推定した。