日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 M (領域外・複数領域) » M-TT 計測技術・研究手法

[M-TT43] インフラサウンド及び関連波動が繋ぐ多圏融合地球物理学の新描像

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.13 (Zoom会場13)

コンビーナ:山本 真行(高知工科大学 システム工学群)、乙津 孝之(一般財団法人 日本気象協会)、市原 美恵(東京大学地震研究所)、新井 伸夫(名古屋大学減災連携研究センター)、座長:柿並 義宏(北海道情報大学)、山本 真行(高知工科大学 システム工学群)

14:15 〜 14:30

[MTT43-03] インフラサウンド観測が可能な試作超小型マイクロホンの評価

*西村 竜一1、伊藤 平2、足立 大2、中島 康貴2、樹所 賢一2、蓮見 敏之2、鈴木 陽一1 (1.国立研究開発法人 情報通信研究機構、2.リオン株式会社)

キーワード:インフラサウンド、超小型マイクロホン、MEMS、並行観測

MEMS 型の気圧センサー DPS310,MBL1000-8,および,超小型マイクロホンを用いて並行観測を実施し,火山の爆発的噴火に伴い発生するような,インフラサウンドの中でも比較的高い周波数帯域に着目して性能を比較した.設置場所は,鹿児島県垂水市高峠にある鹿児島大学農学部附属演習林内のボックスで,桜島南岳から南東の方向に位置し,直線距離にしておよそ 12 km 程度離れた地点である.MBL1000-8 は,MEMS 気圧センサーに基づくインフラサウンド観測装置で,BOSCHE 社製の BME280 を内部に8つ搭載し,それらの観測値を平均して出力値とすることにより,高い周波数で多く見られる内部雑音の低減が図られている.DPS310 は、比較的新しい MEMS 気圧センサーで, I2C や SPI によるシリアル通信で データ取得可能なモジュールが、複数のメーカーから発売されている.今回の実験では,Seeed Studio 社のものを採用した.仕様書上の性能は,BME280 と DPS310 でほぼ等しく,気圧の相対精度がBME280で ±12 Pa であるのに対し,DPS310 は ±6 Pa と記されている.超小型マイクロホンは,リオン(株)が補聴器用として試験的に開発を進めたMEMSマイクロホンをベースとし,インフラサウンドを観測するために改良を施したものである.高いほうは 1 kHz 程度まで感度を有していることから,マイクアンプの出力を 15.9 Hz に遮断周波数を持つ RC 回路による低域通過フィルターに通した後,adafruit 社製 ADS1116 によりサンプリング周波数 32 Hz で AD 変換して I2C によりデータ取得した.また,瞬間的に大きな振幅のインフラサウンドが発生した場合に備えて,10 Hz 感度が –39.3 dBV/Pa の高感度マイクと –67.1 dBV/Pa の低感度マイクの二つを設置した.これらは,直流バイアスの違いから ADS1116 における測定レンジを違えているため,感度が低いセンサーのほうは高いセンサーに比べて,量子化の最小分解能が4倍粗く AD 変換されている.比較はパワースペクトル密度で行い,人の活動に起因する雑音の影響が少なくなると期待される夜間のデータのみを用いて解析することとした.解析対象時間区間は0時から6時までの6時間とし,風雑音による影響が少ない日を選択するために、観測を開始した2021年1月19日以降で標準偏差を比較した.最も低かったのは1月28日であるが,振幅が 5 Pa 程度の信号がしばしば含まれていることから,そのような信号がほとんど発生しておらず,ほぼ同じ値で次に低い1月31日を対象とすることにした.50%オーバーラップした20分のフレーム長で時間分割を行い,パワースペクトル密度を計算して平均を求めた.その結果,10 Hz において高感度マイクでおよそ –12 [dB re 1μPa2/Hz],低感度マイクでおよそ 24 [dB re 1μPa2/Hz] であった.CTBTO の IS でも使用されている DASE MB2000 の電気雑音は,–8 [dB re 1μPa2/Hz] 程度である(A. Le Pichon et al. (Eds.), Infrasound Monitoring for Atmospheric Studies, Chapter 2).このことから,MB2000と同程度の雑音レベルでの観測が,超小型マイクロホンで実現できる可能性を示唆していると考えられる.一方,MEMS 気圧センサーを用いた観測では,10 Hz において DPS310 でおよそ 70 [dB re 1μPa2/Hz],MBL1000-8 でおよそ 81 [dB re 1μPa2/Hz]であった.この周波数帯域での雑音は大きいが、大津波の際に発生する周期が2分を超えるようなインフラサウンドの観測には,マイク型では周波数が低過ぎて感度が減衰しているため ,MEMS 気圧センサーを用いた観測手法が有効であると推定される.今回の観測では,1月28日もそうであるが,振幅が 5 Pa 程度の波形がしばしば観測されている.この波形は,今回の並行観測で用いた全てのセンサーの取得データに見られることから,回路上で混入したものではなく,音として観測されたものと推察される.ただし,桜島から別の方角に設置している観測装置における同時刻の観測データ中には,同様の波形が見られていない.したがって,今回並行観測実験を実施した地点の近隣の工場から発生した人工的な音である可能性もあるが,現時点では音源について特定できていない状況である.
本研究の一部は,JSPS 科研費 17K01351 および 19H02396 の助成を受けたものである.