日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

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[O-05] 博士ってどうやったらなれるの?どんな仕事があるの?

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:阿部 なつ江(国立研究開発法人海洋研究開発機構研究プラットフォーム運用開発部門マントル掘削プロモーション室)、堀 利栄(愛媛大学大学院理工学研究科 地球進化学)、座長:堀 利栄(愛媛大学大学院理工学研究科 地球進化学)、新井 真由美(日本科学未来館)、阿部 なつ江(国立研究開発法人海洋研究開発機構研究プラットフォーム運用開発部門マントル掘削プロモーション室)、小口 千明(埼玉大学大学院理工学研究科)

14:05 〜 14:20

[O05-03] 有機合成化学からサンゴ年輪研究、そして政策の世界 ー炭素で繋がる私の旅ー

★招待講演

*中村 修子1,2 (1.笹川平和財団 海洋政策研究所、2.慶應大学)

私は今「海洋政策」という世界を見ています。まわりにはサンゴ礁やマングローブの生態系を知る人、海ガメやクジラにセンサーをつけて生態を探る研究をした人、北極海を観測して来た人、海洋気候学のモデル研究や海中騒音の専門家もいます。自然科学や水産の研究者だけではありません。海洋文化・民族学の先生、海運・船舶・港湾など海事の仕事に携わった人、法学や経済の研究者、国際関係と安全保障の専門家、国連の機関で働いた人もいて、いろいろな話を聞き、まるで異文化交流のよう、とてもユニークな所です。それまで自然科学の中で見てきた海洋が、これほど人間の営みの場であったのかと思い知らされます。そして人間が海を利用するならば、そこにルールが必要なのだと理解します。けれど不思議なことに「海洋政策」の専門家はあまりいません。様々な背景を持つ人が集まって、考えながら構築する分野なのです。以前は政策なんて自分には異次元の話だと思っていたのに、どうしてこの世界を覗くことになったのか . . .

 私がこれまで辿ってきた道を少しご紹介します。その出発は大学で化学を学んだこと。医薬に興味があり有機合成化学を勉強しました。有機試薬・有機溶媒は石油製品です。当時ヘキサンなどの溶媒を大量に使いながら、あとどのくらい石油は掘れるのだろうか?と漠然と考えました。
 次に中学高校で理科を教えた経験。教員免許の「理科」は容赦なく、物理・化学・生物そして地学も受け持つことになります。しかし当時の私は、地学で扱う悠久の時空間スケールに馴染めず、対象を理解し自分の言葉として伝えることは困難でした。以前からフィールド科学に興味を持ち、地球科学の世界に飛び込んでみました。
 そこで出会ったのが、サンゴ礁の科学、サンゴ年輪を使った気候や環境復元の研究です。年輪は目に見える時間軸のものさしです。炭酸カルシウムのサンゴ骨格年輪が、海水温や塩分、河川を通じて陸地から流れてきたもの、人間活動の痕跡・廃棄物まで、時間の情報と共に記録していると知り衝撃を受けました。ケニアのサンゴ年輪からは過去115年間のインド洋の気候モードを復元し、インド洋の海水温の上昇がはっきりと確認できました。海面上昇の危機に瀕する南太平洋ツバルのサンゴ年輪には、1990年代から真っ黒な混入物が見られました。人口増加に伴って生活排水が増加し、サンゴ礁生態系に影響を及ぼしたプロセスを年輪から解明できました。これらの仕事を通して、気候変動・地球温暖化のCO2問題や環境変動を身近に捉えるようになりました。地球科学を見渡し、いつしかその時空間スケールにも慣れ親しみ、46億年の惑星進化の中で自分の立ち位置を見つめるまでになりました。
 そして今、科学のほかに自分が行動できることは . . .  旅は続きます。