日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS02] Recent advances of Venus science and coming decades

2021年6月3日(木) 17:15 〜 18:30 Ch.01

コンビーナ:佐藤 毅彦(宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部)、Thomas Widemann(Observatoire de Paris)、Kevin McGouldrick(University of Colorado Boulder)、佐川 英夫(京都産業大学)

17:15 〜 18:30

[PPS02-P06] 熱潮汐波に着目したあかつき水平風速のデータ同化と客観解析データ作成の試み

*藤澤 由貴子1、村上 真也1、杉本 憲彦1、高木 征弘2、今村 剛3、堀之内 武4、はしもと じょーじ5、石渡 正樹4、榎本 剛6、三好 建正7、林 祥介8 (1.慶應義塾大学、2.京都産業大学、3.東京大学、4.北海道大学、5.岡山大学、6.京都大学防災研究所、7.理化学研究所、8.神戸大学)

キーワード:あかつき、金星大気、データ同化

金星探査機「あかつき」の観測により、UVIカメラの雲追跡画像による水平風速、LIRカメラによる温度の水平分布のデータ等の取得が実現し、データが蓄積しつつある。しかし、「あかつき」から得られる観測の多くは、観測高度、観測面(昼側あるいは夜側に偏る)、観測頻度に制約があり、観測データのみから時間・空間的に様々なスケールの全球的な循環場を知ることは難しい。本研究の目的は、大気大循環モデルにあかつき観測をデータ同化の手法によって取り込むことで、高時間・空間分解能の金星の客観解析データを作成することである。

金星の雲層の上部には、熱潮汐波と呼ばれる、太陽熱で励起されて太陽とともに移動する惑星規模の大気波がある。これまで我々の開発してきた地球シミュレータ上の金星大気大循環モデル「AFES-Venus」1とあかつきの観測データとの間では、熱潮汐波の位相にずれがあることが指摘されている。Sugimoto et al. (2019) 2は、Venus Express の水平風速データを、局所アンサンブル変換カルマンフィルター(LETKF)を用いた金星大気データ同化システム「ALEDAS-V」3に同化し、この位相のずれを改善した。本発表では、あかつきUVI(365nm)イメージの雲追跡(Ikegawa and Horinouchi, 20164)により得られる水平風速を2018年9月から12月の期間についてALEDAS-V の高度70kmに同化し、Sugimoto et al. (2019)と同様に熱潮汐波の位相のずれの改善を試みた結果を示す。

図は、太陽直下点を参照点としてコンポジット平均をした2018年11月の緯度経度断面図である。各図は、Taguchi et al. (2007) 5 のLIRの加重関数を用いて高度53kmから81kmの間で加重平均をしている。(a,c,e) は、観測を同化しない場合の結果 (free run forecast; “frf”) の結果であり、(b,d,f) は同化をした場合の結果である。東西風速において、同化した結果 (b) は、frf (a) に比べて赤道付近の東西波数2の構造が自転と逆方向に30度ほどシフトしており、熱潮汐波の位相の改善に成功している。温度についても、同化した結果(f)は、frf (e) に比べて、赤道付近の東西波数2の構造が自転と逆方向にシフトしており、水平風速の同化により、風速だけでなく温度の熱潮汐波の位相も改善された。

今回の同化結果は、今後、世界で初めての金星の客観解析データとして、データ公開を行う予定である。


[1] Sugimoto, N., M. Takagi, and Y. Matsuda (2014a), J. Geophys. Res. Planets, 119, 1950–1968.
[2] Sugimoto, N., T. Kouyama, and M. Takagi (2019a), Geophys. Res. Lett., 46, 4573–4580.
[3] Sugimoto, N., A. Yamazaki, T. Kouyama, H. Kashimura, T. Enomoto, and M. Takagi (2017), Scientific Reports, 7(1), 9321.
[4] Ikegawa, S. and T. Horinouchi (2016), Icarus, 271:98–119.
[5] Taguchi, M., T. Fukuhara, T. Imamura, M. Nakamura, N. Iwagami, M. Ueno, M. Suzuki, G. L. Hashimoto, and K. Mitsuyama, (2007), Adv. Space Res., 40, 861–868.