日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS05] 月の科学と探査

2021年6月4日(金) 17:15 〜 18:30 Ch.02

コンビーナ:西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、長岡 央(理化学研究所)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)

17:15 〜 18:30

[PPS05-P03] 月極域探査に向けたレーザー微量水分計「ADORE」

村山 純平1、瀧上 駿2、橋爪 光3、阿部 恒4、鹿山 雅裕7、染川 智弘5、月崎 竜童6、横田 勝一郎1、*山中 千博1 (1.大阪大学大学院 理学研究科、2.大阪大学大学院 理学部、3.茨城大学 理学部、4.産総研、5.公益財団法人 レーザー技術総合研究所、6.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、7.東京大学大学院総合文化研究科)

キーワード:月極域探査、レーザー水分計、Cavity RINGDOWN Spectroscopy

現在、月極域の低温部において月面水(Lunar water)の存在が期待されており、その発見と資源利用に関する競争が開始されている。JAXAの月極域探査計画では、月レゴリス中の水分量として0.1-0.5 wt % 程度があるものとしており、我々は、月面探査ローバーに搭載可能な分析装置の開発研究を進めている。

ローバー搭載を想定している機器のうち、REIWAとよばれる水分析装置パッケージでは、回収したレゴリス試料を加熱し、水蒸気としてサンプルすることを考えている。そのあと、TOF-MASSと狭帯域の近赤外レーザーを用いたレーザー微量水分計を用いた計測を実施する。

我々は、99.99%以上の反射率を有するミラーを用いた共振器セル内に水蒸気を閉じ込め、その間で光を共振させて光路長を稼ぐCRDS(Cavity RingDown Spectroscopy)法をREIWA分析装置の一つとして考え、この方式の小型/ロバスト化を含めた開発を進めてきた。この部分はAquatic Detector using Optical REsonace を略して「ADORE」と呼称している。ADOREは、HやOH基、あるいはそのイオンではなく、HOの分子の振動を観測するので、正式の意味での水分を測定することになり、抽出温度の変化により、レゴリス中の自由水や構造・結晶水の分離といった分析も期待されている。

ADOREでは、波長1.39μmのレーザーを用いており、共振器長5cm セル直径2cmという小型化とロバスト化を実現し、微量水分測定能としては sub ppb @ 1気圧大気の能力を持つ。実際の月面では、ほぼ水蒸気だけのガスを想定しており、約15cm3のセル内に1ng以下の水分があってもこれを検出することができる。事前のリモートセンシングや月面到着後のサーベイランスを行ったうえでのサンプリングとはいえ、実際どれほどの水分が回収できるかは、実施してみないとわからない点もある。よってH2O分子としての絶対量を直接微量レベルまで測定できるADOREの能力は重要である。

さらに、ADOREは、月面水の同位体分析を行う能力も有している。同位体計測は、水の起源や移動に関する情報を与えるので科学的に非常に興味がある。

安定な水素同位体はDとHの2種類で、これは蒸発時などに質量同位体分別効果が大きいことが特徴である。彗星によってもたらされる水は、は地球の標準海水の2倍程度のD/H比があるものとみられているが、太陽風は、Dが枯渇しており、太陽風プロトンと月面の酸化物岩石との相互作用に基づくOH生成の程度を見積もるためには標準海水の1/10程度のD/H比を計測したいところである。これは、ADOREで積算計測を実施すれば可能であると判断されている。また「重いD/Hの水」が検出されれば、酸素同位体18Oの計測も可能である。
試料を一度測定すると、セル内に吸着残留した試料による影響が次回の測定に発現する場合がある。これをmemory 効果と呼ぶ。我々は、この影響がどこまであるかを、水素同位体を用いて検証した。結果は300Pa程度の水蒸気ガスが得られるならば、前試料の影響は、1%以下であるというものであり、想定しているD/H比の計測に影響を与えるようなものではないことがわかった。講演では装置の概要や性能について述べる。