日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2021年6月3日(木) 15:30 〜 17:00 Ch.04 (Zoom会場04)

コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、座長:菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)

16:30 〜 16:45

[PPS06-11] 高EUV放射下の初期火星膨張大気中におけるフォボスの軌道進化

*藤田 晃平1、寺田 直樹1、堺 正太朗1、寺田 香織1 (1.東北大学)

キーワード:フォボス、衛星形成、捕獲説

火星はフォボスとダイモスの 2 つの衛星を有しており、軌道傾斜角と離心率が小さいという共通した特徴がある。これら2つの衛星の起源は、小惑星が火星の重力によって捕獲されたとする捕獲説や、天体が火星に衝突し、衝突により形成された破片が集積することによって形成されたとするジャイアントインパクト説などが挙げられる。捕獲説が支持されている理由として、フォボスはD型小惑星とT型小惑星、ダイモスはD型小惑星とそれぞれ反射スペクトルが一致していることが挙げられるが、現在の軌道傾斜角と離心率の特徴を説明することは難しいと考えられている。捕獲説の場合、小惑星は速度を持っているので、捕獲後の軌道エネルギーの散逸を考える必要がある。軌道エネルギーの散逸過程の例として、大気ドラッグが挙げられる。大気が静止している場合、捕獲された小惑星の寿命 (火星への落下時間) は大気ドラッグにより短くなり、長時間生存できないことが分かった (Hunten, 1979)。この時、軌道はある程度真円化させられるが、傾斜角を減衰させることは難しい。そこで先行研究では、原始火星大気の共回転を考慮に入れた軌道計算が行われた。その結果、静止軌道近傍において順行衛星の寿命が比較的長くなり、離心率や傾斜角が短いタイムスケールで減衰することが示された (Matsuoka and Kuramoto, 2020)。しかし、捕獲後の衛星の軌道進化を追うためには、火星大気の変遷も同時に考慮する必要がある。太陽極端紫外線 (EUV) 放射照度は時間経過に伴って小さくなるので、初期火星大気は収縮する。大気が共回転半径を越えて著しく膨張していた時は、共回転に近い角速度で大気も回転していた可能性があるが、大気の収縮に伴い上層大気で見られるような昼夜間対流などの共回転からずれた風系が静止軌道近傍を通過することで、衛星の軌道に影響を与えることが予想される。
そこで本研究では、EUV放射照度の変化を考慮するために、大気の回転を共回転から数10%ずらし、衛星の寿命が長くなると考えられる静止軌道近傍を中心に軌道計算を行った。その結果、大気の角速度を火星の角速度から10%小さくすると捕獲された小惑星の寿命は静止軌道近傍で1桁短くなり、そのずれが大きくなるほど寿命が短くなることが分かった。一方で、この捕獲された小惑星が軌道を維持するためには、軌道進化のタイムスケールよりも早く大気が収縮する必要がある。膨張していた初期火星大気はEUV放射照度の進化に伴って収縮していくので、火星大気の密度変化を考慮しなければならない。そこで、共回転からのずれに加えて、火星大気の密度変化を考慮した軌道計算を行い、初期火星の異なる大気構造における衛星寿命を求める。本発表では、以上のシナリオにおけるフォボスの軌道計算結果を発表し、捕獲説の妥当性について議論する。