日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] 惑星科学

2021年6月4日(金) 09:00 〜 10:30 Ch.04 (Zoom会場04)

コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、菊地 紘(宇宙航空研究開発機構)、座長:杉浦 圭祐(東京工業大学 地球生命研究所)、小林 真輝人(東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)

09:45 〜 10:00

[PPS06-16] 分化小惑星への巨大衝突の数値計算を用いたコア・地殻混合による石鉄隕石メソシデライトの形成シナリオの検討

*杉浦 圭祐1、羽場 麻希子2、玄田 英典1 (1.東京工業大学 地球生命研究所、2.東京工業大学 地球惑星科学系)

キーワード:石鉄隕石、メソシデライト、分化小惑星、巨大衝突、数値計算、SPH法

メソシデライトは石鉄隕石の一種で, ケイ酸塩と鉄-ニッケル合金を同量程度含んでいる. メソシデライトのケイ酸塩と鉄-ニッケル合金はその化学的組成などから, それぞれ分化した小惑星の地殻と溶融状態にある金属コア由来であると考えられている(e.g., Mittlefehldt et al. 1979; Hassanzadeh et al. 1990). また金属成分は石鉄混合時にもまだ溶融していたと考えられている(e.g., Floran 1978). 一方でマントルの主成分であるカンラン石はメソシデライトにはほとんど含まれていない(e.g., Prinz et al. 1980). メソシデライトの金属部分の冷却速度の測定などから, メソシデライトは形成後に数100 kmサイズの小惑星のある程度深くに埋め込まれてゆっくりと冷却したことが予想されている(e.g., Haack et al. 1996). 以上からメソシデライトは, 分化小惑星の溶融状態にあるコアが巨大衝突で掘削され, 直後に数100 kmサイズの小惑星の表面付近の地殻と混合することで形成したと考えられる. メソシデライトを形成した石鉄混合時 (約45億年前) にコアが溶融状態にあったことから, メソシデライトの金属部の母天体は直径500 km程度の小惑星だと考えられている(Haba et al. 2019). さらにメソシデライトのケイ酸塩部分の酸素-クロム同位体組成がHED隕石と完全に一致すること(e.g., Greenwood et al. 2006)と, HED隕石の赤外分光スペクトルが小惑星ベスタと似ていること(e.g., McCord et al. 1970)から, メソシデライトのケイ酸塩部分の母天体はベスタである可能性が高い.

 巨大衝突による小惑星のコアの掘削・集積過程はScott et al. (2001)が低解像度シミュレーションで大雑把に調べているものの, 集積後の物質の分布を詳しく調べ金属コアと地殻を主成分とする物質の形成が可能か調べた研究は存在しない. そこで本研究ではSmoothed Particle Hydrodynamics (SPH)法を用いた数値シミュレーションでベスタ様小惑星への巨大衝突を再現し, 衝突後の小惑星の物質分布を詳しく調べる. ターゲット天体の半径はベスタ同様の270 kmとし, 内部構造はベスタのマグマオーシャンモデル(Mandler&Elkins-Tanton 2013)に基づいてコア半径110 km, マントル厚さ120 km, 地殻厚さ40kmとした. インパクタ質量はターゲット天体の0.1倍とし, 衝突角度を10°から50°, 衝突速度を2 km/sから5 km/sの間で変化させて様々な衝突計算を実行した.
 その結果, 衝突後の天体質量が元の質量の0.5倍になる程度の破壊的な衝突で金属コアを掘削し, 表面地殻と混合できることがわかった. 衝突によって変形したコアの一部が放出され, その後薄くなった地殻の上に堆積することでコア・地殻の混合が起きていることがわかった. 平均的には表面の50%程度でマントルが露出してしまっているものの, 一部では85%程度が地殻を占めているが少量のコア物質も堆積している場所も形成された. メソシデライトはこのようなサイトで形成可能である. また, より非破壊的な衝突ではコアが掘削できず, より破壊的な衝突では地殻が優先的に失われるので天体上で地殻とコアの混合を実現することがより難しくなることもわかった.