日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS07] 太陽系物質進化

2021年6月5日(土) 10:45 〜 12:15 Ch.04 (Zoom会場04)

コンビーナ:松本 恵(東北大学大学院)、小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、日比谷 由紀(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、座長:小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、松本 恵(東北大学大学院)

11:15 〜 11:30

[PPS07-13] 玄武岩質岩石の衝撃溶融脈発生条件

*大野 遼1、黒澤 耕介1、新原 隆史2、三河内 岳3、玄田 英典4、富岡 尚敬7、鹿山 雅裕5、小池 みずほ6、佐野 有司8、佐竹 渉1、松井 孝典1 (1.千葉工業大学惑星探査研究センター、2.東京大学工学系研究科、3.東京大学総合研究博物館、4.東京工業大学地球生命研究所、5.東京大学大学院総合文化研究科、6.広島大学大学院先進理工科学研究科、7.海洋研究開発機構高知コア研究所、8.東京大学大気海洋研究所)

キーワード:衝撃変成、苦鉄質岩、玄武岩、衝撃実験

はじめに 
 隕石の衝撃変成組織は、その隕石の母天体が被った過去の天体衝突を記録している。隕石の衝撃変成度合い(Shock stage)は岩石・鉱物組織を用いて分類され、過去の衝突の程度(サイズ、速度)を推定するために用いられてきた(e.g., Stöffler et al., 2018)。過去の衝撃実験をもとにして鉱物種そのもの、あるいは岩石分類に応じた衝撃変成分類(Stöffler table)が提案されている。近年、それとは独立にユークライト隕石に特化した詳細な衝撃変成度分類が行われ(Kanemaru et al., 2020),苦鉄質岩石に対するStöffler tableの一つのShock stageの中でもより細かな分類が可能であることが示された。本研究では、標的に対して十分に小さい飛翔体を用いて標的に減衰衝撃波を作用させる衝撃回収実験を行うことで、幅広い衝撃圧力を経験した試料を回収し、回収試料の組織をKanemaru et al.(2020)による分類と比較した。それに加え、実験と同条件の数値衝突計算を実施し、衝撃変成組織が経験した温度圧力を推定した。
試料・手法 
 実験試料は内蒙古自治区の玄武岩を使用した。試料は直径30 ㎜、高さ24 mmの円柱状に加工し、チタン製のコンテナ(外径50 ㎜)に収納した。これにポリカーボネイト製の球状飛翔体を、衝突速度~7 km/sで衝突させた。回収した試料は偏光顕微鏡およびSEMを用いて観察し、先行研究 (Stöffler et al., 2018) の岩石・鉱物組織から、経験した温度・圧力を推定した。また、iSALEを用いて数値衝突計算を実施し、経験した温度・圧力を見積もり、組織観察結果との比較を行った。
結果・考察 
 試料中の爆心地(コンテナの蓋の衝突地点の直下)近傍で玄武岩の主要構成鉱物である斜長石、輝石、カンラン石は、強い波状消光を示していた。爆心地近傍には、衝撃溶融脈(太さは最大で4 µm程度)が複数本存在していた。溶融脈中には、直径約2 µm程度の気泡がみられ、溶融によって脱ガスしたことを示唆している。溶融脈に近接する主要構成鉱物は強い波状消光を示していたが、ガラス化やモザイク化などの組織は見られなかった。Stöffler table Mに従うと、本実験の回収試料は斜長石の衝撃変成組織からはShock stage S2に分類されるが、衝撃溶融脈が存在していることからShock stage S3にも分類されてしまう。この組織はKanemaru et al.(2020)の分類では一意にShock degree Cに対応する。iSALEを用いて衝撃溶融脈近辺の最高経験圧力及び温度を推定すると~10 GPa、~600 Kであった。従ってKanemaru et al.(2020)のShock degree Cは~10 GPaの衝撃圧力で形成されること、この変成時に局所的には数値計算で見積もられた温度よりも~800 Kもの温度超過(玄武岩のソリダス~1400 Kから推定)が起こること、この温度超過はStöffler tableでは想定されていないこと、がわかった。
結論 
 本研究では衝撃回収実験を行い、回収試料の組織観察とiSALEを用いた数値計算結果を比較することで、細分化されたShock stage に対して定量的な圧力の値を与えることができた。さらに、従来のShock stage(Stöffler table)では想定されていない温度超過が起きていることを明らかにした。今後は出発試料や初期温度などの条件を変化させた実験を行い、隕石が経験した衝撃温度圧力の定量的な値の推定を詳細に行なう予定である。