日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG44] 岩石・鉱物・資源

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.23 (Zoom会場23)

コンビーナ:門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、土谷 信高(岩手大学教育学部地学教室)、座長:西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、門馬 綱一(独立行政法人国立科学博物館)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)

15:00 〜 15:15

[SCG44-06] 正長石熱発光のカイネティクスと熱伝導モデル

*佐藤 貴啓1、平野 伸夫1、土屋 範芳1 (1.国立大学法人東北大学)

キーワード:熱発光、長石、熱伝導

石英や長石など鉱物の熱発光現象を地熱探査へと応用する一つの方法として、熱発光強度からの地下温度の推定が挙げられる。本研究では、熱発光強度のカイネティクスを熱伝導方程式と連成させるモデルの作成を行った。
熱発光とは、固体結晶中に放射線が入射して電子が励起し、その一部が励起状態を維持することで蓄積されるエネルギーが、熱刺激によって光として放出される現象である。このエネルギーの蓄積が自然放射線によるものを自然熱発光、人工的な放射線の照射によるものを人工熱発光と呼ぶ。また,加熱温度に対する熱発光強度をプロットしたものをグローカーブといい、このグローカーブを描画する単純なモデルとして、Randall-Wilkinsモデル(Randall and Wilkins. 1945)が存在する。このモデルを実験で得られるパラメータを用いて変換したモデル(Kitis et al.,1998)も存在する。熱発光強度の比較はこのグローカーブの積分値(積分強度)を用いる。
 熱発光のカイネティクスは、熱刺激による熱発光の減衰を表す項と、放射線照射による熱発光の蓄積を表す項で表現されると考え、それぞれの項について検討した。減衰項については熱発光強度の減衰を反応速度式によって記述し、等温加熱実験による結果とフィッティングさせることで検討した。福島県石川町で採取された花崗岩質ペグマタイト中の正長石(長石試料)の熱発光を測定し、前述のKitisモデルを用いてグローカーブを複数の発光強度ピークへ分離した(以下、Peakと表記)。これに基づいて等温加熱によって熱発光を減衰させた試料のグローカーブも同様に分離した。等温加熱の温度は90℃、125℃、150℃で、加熱時間は24時間、168時間、672時間、1512時間、3360時間とした。Peakごとに発光強度の減衰結果をプロットし、頻度因子と反応次数を変数として反応速度式によって描画した曲線をフィッティングさせたところ、2次または3次反応となった。以上より、熱発光強度のカイネティクスのうち、減衰項は2次または3次反応の反応速度式で記述した。続いて,蓄積項について検討するために、人工熱発光測定を行った。長石試料に対して人工的にγ線を照射(照射線量は80、500、1000、2000Gy)した後、放射線強度に応じた熱発光強度を測定し、各Peakの放射線強度あたりの熱発光強度を求めた。使用した試料が受ける年間線量を15mGy/yearとし、各Peakの年間蓄積強度を求めた。以上より、蓄積項は年間蓄積強度を定数とした時間の関数として表すことができた。
 最後に,ある仮想的な熱源による地下温度構造を熱伝導モデルによって設定し、1次元非定常熱伝導モデルでの熱発光強度の時間変化を検討した。熱発光の減衰・蓄積が入れ替わる温度が最も低いPeakで20~30℃の範囲にあり、熱源から遠い場所にある長石の熱発光が蓄積していることから、このモデルには一定の再現性があると判断できる。

参考
Randall, J. T. & Wilkins, M. H. F. (1945, November). Phosphorescence and electron traps. I. The study of trap distributions. In Proceedings of the Royal Society of London A: Mathematical, Physical and Engineering Sciences (Vol. 184, No. 999, pp. 365-389). The Royal Society.
Kitis, G., Gomez-Ros, J.M. and Tuyn J. W. N. (1998) Thermoluminescence glow-curve deconvolution functions for first, second and general orders of kinetics. J. Phys. D: Appl. Phys. 31 (1998) 2636–2641.