日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG45] 海洋底地球科学

2021年6月5日(土) 13:45 〜 15:15 Ch.19 (Zoom会場19)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、座長:木戸 元之(東北大学 災害科学国際研究所)、富田 史章(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

14:15 〜 14:30

[SCG45-15] ウェーブグライダーを用いたGNSS音響結合方式の海底地殻変動観測とその成果

*富田 史章1、飯沼 卓史1、木戸 元之2、太田 雄策3、本荘 千枝3、福田 達也1、堀 高峰1 (1.国立研究開発法人 海洋研究開発機構、2.東北大学災害科学国際研究所、3.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:GNSS音響観測、ウェーブグライダー、海底測地観測、地殻変動、2011年東北沖地震

GNSS音響測距結合方式の海底地殻変動観測(以下,GNSS-A観測)により,地震サイクルに伴う海域での地殻変動が捉えられるようになってきている [e.g., Honsho et al., 2019, JGR].GNSS-A観測では,海上でのGNSS測位及び,海上-海底間の音響測距を行う海上プラットフォーム(海上局)が必要であり,一般的に船舶を海上局とした観測が行われている.しかし,船舶の利用は人的・金銭的な運用コストが高く,多数の観測点での高頻度なGNSS-A観測を実施する上でそのコストの高さが障害となっている.そこで,海洋研究開発機構と東北大学では,波の力により無人で航行可能なウェーブグライダーを海上局とした長期自律的なGNSS-A観測の技術開発に取り組んでいる。これまで、2019年7月に単独観測点での短期間の試験観測を実施し,ウェーブグライダーを用いた観測でも船舶と同程度の精度で海底地殻変動の検出が可能であることを示した [Iinuma et al., 2021, Frontiers in Earth Science].2020年6–7月には,約1ヶ月間に14観測点を網羅的にウェーブグライダーを運用する観測の実施に成功した [富田・他,2020,測地学会].本研究では,2020年10月に実施した観測の概要とその成果を報告する.2020年11–12月に実施した観測の成果についても簡潔に報告するが,この観測は2020年11月上旬以降の三陸沖北部の地震活動の活発化に伴って実施した緊急観測であり,その概要は堀・他 [本学会]にて,観測の技術的な報告は木戸・他 [本学会] にて行う.

2020年10月の観測において,ウェーブグライダーには,GNSS-A観測用機器を装備した他,観測データの取得状況を確認するためのThuraya衛星通信用の機器を搭載した.装備したGNSS-A観測機器は,以下の通りである:2つのGNSSアンテナ(海上局位置計測,及びGNSSジャイロによる姿勢2成分(Heading, pitch)計測用),音響船上装置・音響トランスデューサ(音響測距データ取得用),MEMSジャイロ(姿勢3成分計測用).ウェーブグライダーは,新青丸 KS-20-16航海にて10月8日に岩手県沖のG24観測点で投入され,25日間の観測を実施した後,傭船を用いた航海にて11月1日にG13観測点で回収された.この間,合計で8観測点にてGNSS-A観測を実施した.この内,1観測点のGNSSデータがロガーの不具合により取得できなかったものの,他の観測点では概ね問題なく観測データを取得することに成功した.

ウェーブグライダーによって取得した観測データを処理し,Kido et al. [2006, EPS]の手法により,音響測距1ショット毎の海底局水平アレイ変位の推定を行った.海底局アレイ変位の推定に必要な海底局アレイの形状・初期位置は,過去の船舶観測データによって計算された結果 [Honsho et al., 2019] を用いた.1ショット毎の海底局水平アレイ変位から,観測期間における海底局水平アレイ変位の平均・標準偏差を計算した.2020年10月の観測データは,海中の音速構造の複雑性の影響と思われる1ショット毎の海底局水平アレイ変位の時間的な変動がやや大きく,他の航海に比べるとやや精度が劣るものの,解析自体は問題なく行うことができた.

2016年以前の東北沖におけるGNSS-A観測はどの観測点でも年1回程度は行われていたが [Honsho et al., 2019],2016年以降は上記の運用コスト等の問題によりほとんど観測を行うことができていなかった.しかし,ウェーブグライダーの導入により2020年内で宮城沖以北の観測点で網羅的に観測を行うことができた.その結果,岩手県沖以北の観測点は従来から顕著な余効変動が観測されていなかったが,2020年の観測からも引き続きその傾向が確認された.一方で,宮城県沖の観測点は従来から粘弾性緩和による顕著な陸向きの変動が見られており,2020年の観測からも引き続きその傾向が確認されたが,その変動速度はやや小さくなっている傾向が見られた.

本発表では,上記のウェーブグライダーによる観測の概要に加え,その結果を基にした東北沖北部の余効変動の水平成分についてより深い議論を行う見込みである.なお,鉛直成分の変動含めた東北沖全体の余効変動の議論は本荘・他 [本学会]で行う.