日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG45] 海洋底地球科学

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.19

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)

17:15 〜 18:30

[SCG45-P11] 水酸化鉄の沈殿メカニズムと堆積後の初期続成による鉱物変化 −鹿児島県薩摩硫黄島の例−

*堀 航喜1、清川 昌一2、池原 実3 (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、3.高知大学海洋コア総合研究センター)

キーワード:薩摩硫黄島、水酸化鉄、シデライト (菱鉄鉱)

薩摩硫黄島は鹿児島県枕崎市の南沖約50 km,鬼界カルデラの北西縁に位置する火山島である.島の周辺海域には火山活動に伴う熱水が供給され,海水と混合することで褐色〜乳白色の沈殿物が生じる.特に島南部に位置する長浜湾には溶存鉄や遊離CO2に富む,pH4.4〜5.5程度の弱酸性の熱水 (四ヶ浦・田崎, 2001;坂元, 2015) が供給され,析出した鉄酸化物が海底に堆積している(Kiyokawa and Ueshiba, 2015など).しかし,長浜湾における鉄の酸化・沈殿プロセスや,堆積後の具体的な鉱物種の変化に関する明快な説明は今までにない.そこで本研究では,水質測定や堆積物の観察・分析を行い,鉄の酸化から続成最初期までの段階における,鉄の形態変化を検討した.

 湾内における赤外線サーモグラフィドローン探査を行った結果,湾内の複数箇所で熱水噴出源が特定され,弱酸性熱水が海水面に広がる様子が確認された.また水塊の水質測定を行った結果,海水面付近付近では相対的に低いpH,ORP,EC値と高い濁度値を示し,深部に向かうに従って前者の値は上昇し,後者の値は下降していった.特にpHと濁度値は強い逆相関を示し,表層付近でpHは最小であり濁度は最大であった.これに対応して,撮影された水塊画像からは表層では濁りが強く,海底付近(pH≈8)では析出物の凝集が進み,濁りが弱くなる様子が確認された.さらにDOは,先行研究で報告されている微好気性鉄酸化菌の代謝可能濃度(Krepski et al., 2013)より高い値を示した.
 長浜湾の海底から2020年に採取された堆積物表層コア試料(約40 cm)についてpH・間隙水元素測定を行った結果,表層から深部に向かってpHの値は海水に近い7.5から熱水に近い5.8程度まで下がり,FeやMn,Siといった元素の濃度が増加した.また,2020年に採取された別の表層コア試料において,深度別に28箇所から採取した試料を用いてXRDを行った結果,堆積物上部(10〜20 cmbsf)からはゲーサイト,それ以深からはシデライトのピークが得られた.このシデライトはSEM観察において菱形の自形を表していた.さらに,このコアと同位置で採取され層序がよく対比される過去(2010年採取)のコアとの同層序5箇所におけるXRDピークの比較を行ったところ,過去のコアの最も浅部の試料ではシデライトのピークが昨年度採取の試料と比べて不完全であった.

 以上の結果をまとめると,長浜湾では次の様な沈殿モデルが考えられる.水塊表層付近では溶存鉄が無機的に酸化され,水酸化鉄の初生物およびゲーサイトの前駆体であるフェリハイドライトとして個体析出し沈殿していくと示唆される.この時,海水との混合により生じるpHの海底方向への増大は,沈殿途中の水酸化鉄の凝集を強く支配していると考えられる.堆積後,堆積物の一部は埋没の過程で海底表層付近においてゲーサイトに変化する.さらに深部では,間隙水中に堆積物の還元と海底からの熱水供給に由来する溶存鉄が豊富に存在する様になり,これがシデライトの沈殿に利用されると考えられる.また過去のコアとのXRDの比較より,浅部のシデライトは堆積物内においてここ十年間で成長した結晶であることが示唆される.