日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG46] 地球惑星科学におけるレオロジーと破壊・摩擦の物理

2021年6月5日(土) 10:45 〜 12:15 Ch.20 (Zoom会場20)

コンビーナ:東 真太郎(東京工業大学 理学院 地球惑星科学系)、清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、田阪 美樹(静岡大学)、座長:清水 以知子(京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、桑野 修(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)

11:00 〜 11:15

[SCG46-08] 石膏からなる模擬断層ガウジの脱水反応速度論に支配された固着すべり挙動の変化

*川畑 樹大1、白石 令1、武藤 潤1、長濱 裕幸1、佐々木 勇人2 (1.東北大学大学院理学研究科地学専攻、2.東京大学地震研究所)

キーワード:固着すべり、沈み込み帯、脱水不安定性、間隙流体圧、反応速度論

沈み込み帯では,間隙流体圧の上昇によりゆっくりすべりが生じ(片山,2016),アスペリティに応力が蓄積され,やがて巨大地震の発生に至ると考えられている(長谷川ほか,2015).石膏は比較的低温・低圧で脱水相転移するため,沈み込み帯における含水鉱物の脱水不安定性を実験室で平易に再現可能であり,地殻のアナログ物質として有用である(Brantut et al., 2011).よって,石膏を用いた,間隙流体圧がすべりイベントに及ぼす影響に関する研究は多く行われている(たとえば,Leclère et al., 2016).また,含水鉱物の脱水反応を,反応速度論の観点から調べた研究も多く存在する(たとえば,Liu et al., 2015).脱水反応速度論が摩擦挙動をどのように支配しているかを明らかにするために,佐々木ほか(2016)は様々な温度・圧力条件下で石膏からなる模擬断層ガウジを用いた摩擦実験を行い,脱水条件下では時間とともに固着すべりの再来周期が変化することがわかった.その後,岩崎ほか(2017)は佐々木ほか(2016)のデータ解析をし,石膏が摩擦実験中に脱水相転移するという仮定のもとで間隙流体圧の時間関数を導出した.しかし,以上の研究において,実験後に脱水生成物の存在は確認されなかった.本研究では,はじめに実験中における石膏の脱水可能性について議論し,続いて間隙流体圧の時間関数の評価を行った.
佐々木ほか(2016)は,封圧10 – 200 MPa,室温 – 180 ℃の条件下で,石膏ガウジを用いた摩擦実験を行った.室温下および70 ℃下では,封圧が大きいほど応力降下量および再来周期は増大したが,封圧200 MPa,110 ℃では応力降下量および再来周期は時間とともに減少した(岩崎ほか,2017).これは,石膏の脱水相転移により間隙流体圧が生じ,みかけの力学強度を下げたためであると推定される.岩崎ほか(2017)は,間隙流体圧の時間変化に対して,反応速度論式であるAvramiの式(Avrami, 1940)でフィッティングを行い,間隙流体圧の時間関数を得た.
石膏の脱水可能性について,応力降下量が時間変化していた条件では,間隙流体圧を考慮しない場合,摩擦係数が時間とともに減少していた.しかし,間隙流体圧を考慮したところ,摩擦係数がほぼ一定の値となり,さらにそれは先行研究により報告されている石膏の摩擦係数に近い値を示した.また,脱水が推定される条件の微細組織にはRiedel剪断面の発達があまり見られなかったが,これは間隙流体圧の発生による剪断応力の減少が原因であると考えられる(Leclère et al., 2016).さらに,間隙流体圧が生じたと仮定して,石膏ガウジの間隙率を計算したところ,先行研究で知られている値よりやや小さな値となったが,脱水反応が生じたと考えられる値を示した.以上から,摩擦実験中に石膏は脱水相転移した可能性が十分に示唆されたため,続いて間隙流体圧の時間関数の評価を行った.時間関数化に用いたAvramiの式には,物質の反応速度kおよび物質の生成・成長機構に関わる指数nが含まれる.反応速度kは温度・圧力等の条件に依存するため,先行研究の条件と本実験のそれをもとに比較したところ,おおむね調和的な値であった(Liu et al., 2015;Ballirano and Melis, 2009;Carbone et al., 2008).指数nは物質の生成・成長機構を示す有意な値であった.以上から,得られた間隙流体圧の時間関数は妥当であると考えられる.石膏を用いた摩擦実験により得られた間隙流体圧の時間関数を用いることでゆっくりすべりが生じるまでの時間の推定が可能となれば,アスペリティに応力が蓄積される周期の推定や,ゆっくりすべりにより引き起こされる巨大地震の発生に関する研究に貢献できると考えられる.