日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP25] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2021年6月6日(日) 17:15 〜 18:30 Ch.12

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)

17:15 〜 18:30

[SMP25-P02] 領家帯東端部,伊那市長谷地域の地質と欠損テクトニクス

*小野 晃

キーワード:領家帯、伊那市長谷、長谷ユニット、鹿塩マイロナイト、欠損テクトニクス

本州中央部の中央構造線(MTL)は日本海拡大期に形成されたが,その形成過程において,大規模な地質体の移動や変形や欠損が起きたと考えられている[1].長野県伊那市の領家帯東端部は,このテクトニクスの影響を強く受けたと推定される[2,3].ここでは,長谷市野瀬地域の地質を提示して,地質体が欠損するテクトニクス(Missing tectonics)を確認する.

長谷市野瀬地域の領家帯には,非持トーナル岩,領家片麻岩,粟沢変成岩などがおもに分布している(Figure A).非持トーナル岩の東縁部(Figure Aの明るい青色領域)には,領家変成岩起源の小岩塊や岩体が多数介在している.その捕獲岩について,砂質および泥質のマイロナイトが粟沢西方の山吹沢などに分布している.一方,馬越-中尾地域では,チャートや凝灰岩などを起源とするマイロナイトが多い.粟沢変成岩は,鹿塩マイロナイト帯に入り込むようにMTLの西側に分布している.

山吹沢近傍の泥質・砂質マイロナイトは領家片麻岩起源である.その根拠は(1)garnet-cordierite gneissが2か所に残存している(Figure Bのgneiss).(2)融蝕されたザクロ石ポーフィロクラスト(Figure C)が複数の岩石試料に存在する.なお,ザクロ石はマイロナイトの基質部には認められていない.(3)片麻岩起源と推定される石英-長石脈が残存している.

山吹沢やその近傍の泥質マイロナイトについて,基質の石英や長石の平均的な粒径は,上流域では約20-30µmで,下流域では約10-20µmである(Figure B).変成温度は,上流域よりも下流域の方が低温であると推定される.しかし,長石温度計から推定される変成温度は,どちらもほぼ同じである.すなわち基質のカリ長石のAb content はすべての試料でほぼ一定である.山吹沢近傍の花崗岩質岩石について,上流域ではマイロナイト化作用による再結晶作用がほとんど認められない岩石が多い.その種のトーナル岩について,比較的小さい石英や斜長石の粒径は,約70-100µmである(Figure B).なお,黒雲母やカリ長石が多い花崗岩質岩石は,上流域でもマイロナイト化作用を受けている.

馬越―中尾地域の堆積岩源マイロナイトの原岩は,おもに泥岩,砂岩,チャート,珪質泥岩,珪質凝灰岩,礫岩,混在岩である.これらは付加複合体の長谷ユニットに属する[3].長谷ユニット起源のマイロナイトの大部分は,スレートやチャートと誤認されかねないほど微細である.しかも微細な堆積組織(Figure D)や放散虫化石の痕跡(Figures E & H)が認められ,原岩はgarnet-cordierite zoneよりも低温の変成岩と推定される.変質作用をほとんど被っていない泥質マイロナイトのおもな構成鉱物は,黒雲母,白雲母,斜長石,石英である.カリ長石は稀で,電気石はしばしばかなり多いことがある.ザクロ石は認められていない.ただし,calciteに富む泥質マイロナイトには微細なザクロ石が存在し,稀にではあるが,粗粒のandradite成分が多いザクロ石(Figure F)も見出される.

馬越―中尾地域のマイロナイトは,一般に,強い剪断作用の下で形成されたと想定されている.しかし,放散虫化石は強く変形されていない(Figure H).プレシャ-シャドウが電気石や斜長石のポーフィロクラストに発達していない場合(Figure G)が非常に多い.これらの事実からみて,剪断作用は,それほど強くなかったことが想定される.

長谷ユニットは高遠町の板山地域から伊那市長谷の分杭峠までMTLの近傍に分布している.しかし,粟沢地域には長谷ユニットが確認できず,長谷ユニットは中新世のMTL形成テクトニクスによって欠損してしまったと推定される.馬越-中尾地域の長谷ユニットについても,狭長な上に,面構造の走向はMTLや長谷断層と著しく斜交している.先中新世の長谷ユニットの大部分は,中新世に消滅したと考えられる[1-3].

[1] Ono, 2020, JpGU-AGU Joint Meeting, SGL33-P07.[2]小野,2016, JpGU Meeting, SGL37- P16.[3]小野,2018, 日本地質学会第125年学術大会, R15-P-13.