日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT36] 合成開口レーダーとその応用

2021年6月5日(土) 10:45 〜 12:15 Ch.22 (Zoom会場22)

コンビーナ:木下 陽平(筑波大学)、阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、小林 祥子(玉川大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、座長:大槻 真嗣(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)

11:15 〜 11:30

[STT36-09] GNSS観測との比較による日本内L-Band InSAR可降水量測定の誤差評価

*松沢 啓太1、木下 陽平1 (1.筑波大学)


キーワード:干渉合成開口レーダ、ALOS2、水蒸気、誤差伝播

干渉合成開口レーダ(Interferometric synthetic aperture radar, InSAR)は衛星視線方向の地表面変位量を観測することができる. さらにGNSS(Global Navigation Satellite System)と同じく大気遅延効果によって天頂遅延量や可降水量といった対流圏情報も高い水平分解能で近似的に測定することもできる. InSARによって観測された可降水量の精度は先行研究(Tang et al. 2016, Mateus et al. 2020)によって評価されてきた. しかし, 誤差評価の対象とされてきたC-bandレーダによって得られたInSARデータのみである. 一般的に1つのSAR衛星にはそれぞれ1種類の周波数帯を用いたレーダが搭載されていて, SAR観測には主にX-band, C-band, L-bandの3種類の周波数帯が使用されている. 気象予測におけるデータ同化という処理ではより正確な初期値を計算するために気象観測データの精度情報が使用される. 各周波数帯で干渉性や電離層遅延の大きさが異なるため, 周波数帯ごとにInSARデータによる水蒸気観測の誤差評価を行う必要がある.

本研究では, L-bandのInSARデータから得た可降水量の誤差評価を行った. まず, InSARデータから得た衛星視線方向遅延量を三角関数によって天頂方向に投影し変換することで天頂遅延量差分布を計算した. この際, GNSSによってInSARと同地域・同時刻に観測した天頂遅延量差情報と比較を行いInSARデータの天頂遅延量差分布を補正した. 次に, InSARから得た天頂遅延量差をGNSSから得た天頂遅延量差から差し引くことで残差およびその標準偏差を計算した. また, 天頂遅延量差を一定の係数を用いて可降水量差に変換した. そして, 天頂遅延量差同士の残差の標準偏差とラジオゾンデとの比較から得られたGNSSの天頂遅延量に対する観測誤差を用いて, 誤差伝播の法則からInSARデータより計算した各SAR観測時の可降水量に対する標準偏差を計算した. 水蒸気観測におけるノイズの大きさは各SAR観測で等しいと仮定し, GNSSの天頂遅延量に対する観測誤差 は先行研究(Boccolari et al. 2002)で示された16.1mmとした. 本研究では, Nevada大学Geodetic Laboratory が5分間隔のPPP解析を行ったGNSS連続観測システム(GEONET)のデータを使用した.

L-band InSARデータに含まれる電離層遅延ノイズはSplit-Spectrum Methodを用いて補正した. 使用したSARデータはSAR衛星ALOS2搭載PALSAR2のStripmapモードで得られたデータである. 使用データは日本内の茨城南部, 東京・神奈川西部, 大阪, 九州南部の4地域を対象地域とし, 2014年から2020年にかけて観測された. また, ノイズ低減のためにInSARデータの分解能が100×100mとなるようなマルチルック処理を行った.

GNSS天頂遅延量差とInSAR天頂遅延量差の残差は平均値が0とほぼ等しくなり, 標準偏差は8.64mmとなった. 各地域で残差の標準偏差は異なり, また, 夏季(出水期)の6月から9月にかけて観測されたデータの場合, 残差の標準偏差が大きくなる傾向が見られた. また, L-band InSARデータから得た可降水量の観測誤差は2.83mmとなった. C-band InSAR, GNSS, ラジオメータ及び気象衛星の可降水量に対する各誤差と比較した結果, L-band InSARによる可降水量観測は他観測手法と同程度の精度であった. 学会発表までにInSAR時系列解析を行い各SAR観測日でのInSAR可降水量観測の精度を評価する.