日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC28] 活動的⽕⼭

2021年6月5日(土) 10:45 〜 11:30 Ch.25 (Zoom会場25)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:角皆 潤(名古屋大学大学院環境学研究科)、大場 武(東海大学理学部化学科)

11:00 〜 11:15

[SVC28-26] 箱根山火山ガス組成の経時変化(2018~2020年)

*豊島 誠也1、沼波 望1、大場 武1、谷口 無我2 (1.東海大学、2.気象研究所)

キーワード:箱根山、火山ガス、水蒸気噴火

箱根山は神奈川県西部に位置する活火山である。2015年4月末から群発地震が始まり、6月29日に小規模な水蒸気噴火が発生した。その後、2019年5月に群発地震が再び発生した。現在でも大涌谷では、噴気孔から火山ガスが活発に噴出している。本研究では火山ガス化学組成の経時変化から、2018年以降の箱根山の火山活動を考察する。

火山ガスは大涌谷(NとC)と上湯場(S)の計3か所の噴気孔で、月に1度の頻度で採取した。Cは2015年の水蒸気噴火の際に形成された噴気孔である。Cの組成は、近接する深度500mの52号蒸気井の蒸気組成と類似しており、Cの噴気は地下500m付近のガスを代表していると考えられる(Ohba et al, 2019)。火山ガスを採取するため、噴気孔にチタン管を差し込み、空気の混入を避けるため土砂ですき間を塞いだ。チタン管をゴム管に接続し、火山ガスをヨウ素酸カリウムとヨウ化カリウムの混合溶液を入れた吸収管や水酸化カリウムを入れた真空容器に吸引して採取を行った。採取した火山ガスのH2SとSO2を重量分析法、CO2を微量拡散分析法、その他成分はガスクロマトグラフ法を用いて組成分析を行った。

すべての地点でCO2/H2Sモル比は、気象庁の観測による地震回数増加に調和し、2019年8月をピークに増加した。その後、NとCで減少したが、SのCO2/H2Sモル比は減少せず、群発地震の後にわずかに増加した。SO2/H2Sモル比は、Cで2019年8月をピークに増加し、その後減少した。SO2-CO2-H2S三成分図(Stix and de Moor, 2018)において、3地点の位置は大きく異なっていた。NとSは、SO2に乏しいため、CO2頂点とH2S頂点を結ぶ辺の近くに分布した。Cは比較的高濃度のSO2を含むため、CO2頂点とH2S頂点を結ぶ辺から外れ、CO2/SO2モル比が約5の線上に分布した。2018年にNとSは全体的にH2S頂点の方向へわずかに移動したが、2019年1月から8月にかけてCO2頂点の方向に移動し、その後、H2S頂点の方向へ戻った。Cは、2019年1月から8月にかけてCO2/SO2モル比が約5の線に沿い、H2S頂点から遠ざかり、その後、H2S頂点の方向へ戻った。

CO2/H2S、SO2/H2Sモル比の変化より、箱根山の熱水系に対し、2019年8月をピークにマグマ性ガスの供給が盛んになったと推定される。この変動は、地震回数の増減と調和していたと考えられる。三成分図で各地点の位置が大きく異なることから、火山ガスの発生から噴出までのプロセスが大きく異なると示唆される。CはCO2/H2S、SO2/H2Sモル比の変動の大きさと、SO2を高濃度で含むため、マグマ寄与が他の地点より強いと考えられる。Sは他の2地点と比べてCO2頂点の方向に分布していた。CO2/H2S比の変動が比較的少ない事と、三成分図での位置により、Sは地下浅所を通過する際に硫黄成分が除去され、相対的にCO2に富むようになったと考えられる。



参考文献

Ohba T, Yaguchi M, Nishino K, Numanami N, Daita Y, Sukigara C, Ito M, Tsunogai U (2019) Earth, Planets and Space, doi.org/10.1186/s40623-019-1027-5

Stix J, de Moor J M (2018) Earth Planets Space, doi.org/10.1186/s40623-018-0855-z