日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC28] 活動的⽕⼭

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.16

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)

17:15 〜 18:30

[SVC28-P17] 空振小アレイ観測を駆使した霧島での2つの観測実験

*山河 和也1、市原 美恵1、村松 弾2、松島 健2、和田 路加3、高橋 英俊3、下山 勲4 (1.東京大学地震研究所、2.九州大学理学研究院附属地震火山観測研究センター、3.慶應大学理工学部機械工学科、4.富山県立大学工学部知能ロボット工学科)

キーワード:空振、アレイ、火山

可聴域以下 (< 20 Hz) の音は空振と呼ばれ、火山噴火をはじめとする様々な地球物理的現象の監視に役立てられている。近年、高性能な空振計を駆使した全長数十メートル程度の小アレイが実用に耐うる性能を持つことが示され [Johnson & Palma, 2015; Yamakawa et al., 2018]、安価で高性能なMEMS (Micro Electro Mechanical Systems) 空振計も開発されつつある [Wada and Takahashi, Japanese Journal of Applied Physics, 2020]。本研究では、2020年10月に霧島にて実施した、空振小アレイを活用する2つの観測実験について報告する。

第一の実験は、新型のMEMS空振計 [Wada and Takahashi, 2020] の性能を評価するためのテスト観測実験である。実験は2020年10月19日17時から翌日12時まで、複数の活動的噴気孔が存在していた霧島硫黄山にて実施した。新型のMEMS空振計を、別の現場での使用実績があるACO社製7744N型空振計 (以下、ACO空振計と略する) と比較した。3要素、全長 15 m の空振アレイ観測を設置し、それぞれのアレイ要素にMEMS空振計とACO空振計を一台ずつ同梱した (Figure 1)。データロガーは白山工業社製低消費電力データ収録装置 LS-8800を2台使用し、1台をACO空振計3台に、もう1台をMEMS空振計3台に割り当ててデータを収録した。アレイ観測点の東北東 150 m の位置には硫黄山西火口が、西北西 270 m の位置には硫黄山南火口が存在し [Tajima et al., 2020; Muramatsu et al., 2021]、それぞれ噴気活動をしていた。本稿では、硫黄山西火口をNW噴気孔、硫黄山南火口をNE噴気孔と呼ぶ (Figure 1)。NW噴気孔の近くには白山工業社製SI104型空振計 (以下、SI空振計と略する) を設置した。
同梱したMEMS空振計とACO空振計は同じ波形を描き、1 Hz 以上ではスペクトルも一致した。相互相関法やMUSIC法などによるアレイ解析を、MEMS空振計のアレイとACO空振計のアレイのそれぞれで行ったが、結果はほぼ同じだった。以上より、新型のMEMS空振計も十分に実用的な性能を持つことが実証された。
アレイ解析の結果、アレイ観測点付近では、どの時間帯でもNE噴気孔からの空振が支配的であることがわかった。アレイのデータと,NW噴気孔近くに設置したSI空振計を合わせて解析することで,微弱なNW噴気孔の信号を識別することもできた.SI空振計とアレイ観測点の空振計の波形の相関係数を調べたところ、NW噴気孔に対応する時間差の相関係数は 0.01 なのに対し、NE噴気孔に対応する時間差の相関係数は 0.13 となった (Figure 2)。NW噴気孔とNE噴気孔の空振間の相関がないこと、噴気孔が単極子音源であることを仮定して相関係数の比を振幅比に変換すると、NW噴気孔とNE噴気孔の空振振幅比は概ね 0.06-0.1 と推定された。

第二の実験は、空振小アレイによる機動観測である。2020年10月20日の午後3時から午後5時まで、霧島市牧園町周辺にて実験を実施した。車で移動しながら、観測点に停車、全長 15 m の3要素空振小アレイを数分間展開して回収し、次の観測点に向かう、という手順で観測を行い、2時間で4地点の小アレイ観測データを得た。空振計には、第一の実験でも使用したACO空振計3台を使用した。
アレイ解析の結果、P1, P2, P4の観測点にて、噴気地帯 (硫黄谷噴気地帯公園) の信号到来方向が推定された (Figure 3)。観測点P3の信号到来方向は硫黄谷噴気公園への方向とは異なっていたが、P3と噴気地帯の間には丘があることから、この到来方向のズレは地形効果が原因と考えられる。このような噴気地帯の信号は,火山の微弱な空振を観測する際に妨げとなる可能性があり,観測点の配置などにおいて注意する必要がある。

本研究によって、二つの実験がともに主目的を達成できていることが確認できた。第一の実験では新型のMEMS空振計が実用的であることが示された。安価で高性能な空振計は、今後の空振観測の利便性を大きく底上げすることが期待できる。さらに、第一の実験では別の音源でマスクされた空振を識別することにも成功した。第二の実験では空振小アレイの機動性を実証でき、かつ短時間での空振ノイズ源の特定に成功した。これらの実験により、小アレイの利便性と空振観測手法の可能性が示された。