日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC29] 火山の熱水系

2021年6月6日(日) 13:45 〜 15:15 Ch.25 (Zoom会場25)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:大場 武(東海大学理学部化学科)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)

15:00 〜 15:15

[SVC29-06] PALSAR-2による九重火山群の地盤変動

*成田 翔平1、大倉 敬宏1 (1.国立大学法人京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター)

キーワード:合成開口レーダー、九重山、地盤変動、八丁原発電所

九重火山群は大分県西部に位置する火山であり, 火山群中央部の硫黄山では現在も活発な地熱・噴気活動が見られる。最新の噴火は1995年に硫黄山の南側に形成された火口列で発生しており, 噴火直後から噴火前の数倍規模の放熱活動と顕著な地盤収縮が観測された(Nakaboh et al., 2003)。この地盤収縮は, 火口近傍の光波測距およびGNSS繰り返し観測により, 少なくとも2002年までは継続していたことが確認されている(斎藤ほか, 2003)。気象庁が2001年から運用を開始したGNSS連続観測網では, 2012年以降, 硫黄山を挟む基線において山体膨張を示唆する基線伸長が観測されており, 山体内でマグマや流体の蓄積が進行している可能性がある。

 本研究では, この地盤変動の時空間特性をより詳細に明らかにするために, L-bandの干渉合成開口レーダー(InSAR)であるPALSAR-2データを解析した。解析に用いたデータは2014年から2019年までに取得された, 北行右向きおよび南行右向きの2種類の軌道データである。これらを用いて干渉解析を行ったのち, 得られた干渉画像から変位時系列を推定するためにSBAS(Small Baseline Subset)法によるInSAR時系列解析を行った。なお, 得られた変位時系列は, いずれの地点においてもほぼ線形な時間変化を示したが, 2016年4月を境に熊本地震の本震による顕著なステップが見られた。この影響を取り除くために, 時系列を線形関数とステップ関数の組み合わせで近似し, 推定されたステップ部分を時系列から差し引き補正した。

 解析の結果, 硫黄山と火山群西側に位置する八丁原・大岳地熱発電所を中心に, 両軌道データともに衛星と地表との視線距離の伸長を示した。変動の空間スケールは, 硫黄山では1km弱と局所的であるのに対し, 八丁原・大岳発電所では4km程度と比較的広範囲であった。上下・東西成分の空間分布としては, 硫黄山では東向き変位(1.4cm/yr)と沈降(1.4 cm/yr)がみられ, 単純な収縮源のみでは説明できないパターンを示した。一方, 八丁原・大岳発電所では単純な収縮のパターンが見られ, その沈降速度は八丁原発電所で1.2 cm/yr, 大岳発電所では0.4 cm/yr程度であった。この変動の空間スケールおよび速度は, 2007-2010年における八丁原近辺の変動の特徴(Ishitsuka et al., 2016)と概ね整合しており, 少なくとも2007-2019年の12年間では同一の地熱貯留層がほぼ一定速度で収縮し続けていると考えられる。

 変動の空間分布を説明するモデル推定の結果, 硫黄山の変動は, 単一の収縮源の場合よりも, 球状圧力源の収縮と右横ずれ正断層すべりの組み合わせの方がより良いフィッティングを示した。この収縮源は硫黄山の噴気孔群直下200-300mのごく浅所に推定されており, GNSSデータから推定された1995-2002年の収縮源の深さ(500-600m)よりも有意に浅くなっていた。また, 今回推定された収縮源の位置は1995年噴火後の帯磁源(坂中ほか, 2001)とほぼ重なった。この帯磁源は2014年以降消磁に転じている可能性が高く, 現在は収縮と消磁がほぼ同位置で進行していると考えられる。これは, 他の火山で見られる膨張と消磁または収縮と帯磁の組み合わせ(橋本ほか, 2019)とは異なる珍しい現象であり, 今後の地磁気や熱データとの定量的な比較を通じてメカニズム解明を行う必要がある。

 今回PALSAR-2によって検出された硫黄山の変動は, GNSS観測から予想される膨張性の変動とは逆センスであった。また, 2012年以降に伸びが観測されたGNSS基線長は4-5kmであり, InSARによる局所変動の空間波長(<1 km)よりも十分長いため, GNSS観測ではより深部の変動源に起因する膨張を捉えている可能性が高い。なお, InSAR画像中の硫黄山周辺のやや広域では, 膨張センスの位相変化がわずかに見られるが, SN比が悪く火山性変動であるとの断定は現時点ではできない。この膨張性変動の実態をより詳細に明らかにするためには, 今後, GNSSデータから非火山性の変動要因(プレート運動, スロースリップ, 熊本地震の余効変動, 八丁原・大岳発電所の収縮など)を取り除き, 九重山の火山性変動のみを抽出する必要がある。

謝辞
本研究で用いたPALSAR-2データは, 火山噴火予知連絡会衛星WGおよび東京大学地震研究所の共同利用のもとでPIXELを通じてJAXAより提供された。原データの所有権はJAXAにある。干渉解析には小澤拓氏(防災科学技術研究所)により開発されたRINCver0.41を使用した。モデル推定にはGBIS(Geodetic Bayesian Inversion Software; Bagnardi and Hooper, 2018)を用いた。解析には国土地理院10mメッシュDEMを使用した。ここに記して関係各位にお礼申し上げる。