日本地球惑星科学連合2021年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 火山噴火のダイナミクスと素過程

2021年6月5日(土) 17:15 〜 18:30 Ch.16

コンビーナ:鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、並木 敦子(名古屋大学 大学院環境学研究科 地球環境科学専攻)、大橋 正俊(東京大学地震研究所)

17:15 〜 18:30

[SVC31-P12] 650℃ 流紋岩質メルトにおける水の飽和溶解度の決定と "水素結合モデル" による解釈

*西脇 瑞紀1、三輪 学央2 (1. 九州大学理学府地球惑星科学専攻、2.防災科学技術研究所)


キーワード:水の飽和溶解度、650℃、流紋岩質メルト、発泡現象、水素結合モデル

650℃ 流紋岩質メルトにおける水の飽和溶解度を 30, 90, 150 MPa の3つの圧力で実験によって決定した。実験には、防災科学技術研究所 (つくば) の水熱合成減圧実験装置およびコールドシール型のニッケル圧力容器を使用した。まず、清澄な流紋岩質黒曜石ガラスのペレットと約 10 wt% の水を目的の最終圧力よりも十分に高圧、800℃ もしくは 900℃ で 21~48 時間放置し、水をガラスに水和させた。続いて、圧力を保持したまま 650℃ まで降温したのち 0~120 時間放置し、水をメルトにさらに溶け込ませた。これを目的の最終圧力 (30, 90, 150 MPa) まで減圧したのち、24~96 時間放置することで十分に気泡を成長させ、メルト中の水の過飽和をできるだけ解消した。次に、圧力容器を空冷して実験産物を回収し、低速カッターで数枚にスライスしたのち、それぞれの両面研磨薄片を作成した。減圧後の保持時間や空冷の間にマイクロライトやナノライトが晶出していないことは、九州大学理学研究院の FE-SEM (JEOL JSM-7001F) を用いた観察で確認した。最後に、東京大学地震研究所の顕微 FT-IR (JASCO FT/IR-660 Plus spectrometer and a JASCO IRT-30 microscope) を用いて、各薄片のガラス部分の含水量を透過法で測定した。また、気泡周囲に濃度勾配がないことを反射法測定で確認した。

FT-IR 透過法測定の結果、水の飽和溶解度は 30 MPa では 2.70 ± 0.25 wt%、90 MPa では 5.84 ± 0.54 wt%、150 MPa では 6.84 ± 0.63 wt% であった。これらの値は Burnham (1979) によって提唱された "Burnham モデル" から計算される値よりも有意に大きい。Burnham モデルでは、Si-O 結合の加水分解反応を通して、水はすべて OH- として溶け込むと考えられていた。しかし、低温のメルトでは分子として溶け込む水 (H2Om) の存在が無視できない。そこで我々は、H2Om のメルトへの溶解のメカニズムは Si-O ネットワークの O と H2Om の H の間の水素結合の形成であると考え、この効果を取り込んだ新しい溶解度モデルを構築した。具体的には、H2Om の溶解度の温度圧力依存性を化学熱力学の議論から解析的に導出し、水に飽和しているアルミノケイ酸塩メルト中の水素結合のモルエンタルピー ΔH = 10 kJ/mol (Mysen, 2012) を代入した。OH- の溶解度は、H2Om の溶解度および H2Om と OH- の間の平衡定数 K = [OH-]2/[oxygen][H2Om] から計算でき、H2Om の溶解度との合計が全含水量 (飽和溶解度) となる。この "水素結合モデル" は、K ≒ 0.040~0.10 のときに上述の実験結果を非常に良く説明可能である。

これまで 700℃ 未満の低温メルトにおける水の飽和溶解度は、実験による決定例が僅少であり、またそれゆえに信頼できる値を求められる理論も存在しなかった。今回の溶解度決定実験も含め、低温マグマの物理化学的性質を詳細に調べることで、マグマだまりや火道壁の冷却過程、岩脈や岩床の形成過程、黒曜石溶岩流の振る舞いなどの理解が促進されるかもしれない。