日本地球惑星科学連合2021年大会

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[E] 口頭発表

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[U-08] Advancing SDGs through inclusive partnerships I: Strategic leadership

2021年6月4日(金) 09:00 〜 10:30 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:Vincent Tong(University College London)、中村 秀規(公立大学法人富山県立大学)、清水 美香(京都大学)、野口 扶美子(国連大学サステナビリティ高等研究所)、座長:Vincent Tong(University College London)、中村 秀規(公立大学法人富山県立大学)、清水 美香(京都大学)、野口 扶美子(国連大学サステナビリティ高等研究所)

09:30 〜 09:45

[U08-03] ESDプラットフォームづくりの変遷ーRCE Hyogo-Kobeの事例からー

★招待講演

*清野 未恵子1 (1.神戸大学)

キーワード:持続可能な開発のための教育、プラットフォーム、主体的な学習者、RCE Hyogo-Kobe、兵庫県、日本

2002年にSDを推進する人材育成としてESDの概念が提唱された。その後、ESDに関する地域の拠点(RCE)のネットワークづくりがユネスコ主導で進み、現在は世界に180箇所のRCEが認証されている。RCE Hyogo-Kobeは神戸大学が事務局となり、NPO、市民団体、企業、など100名を超えるメンバーで構成されており2007年に認証された。ESDに関心があり兵庫県を中心に活動している方であれば誰でも加入することができる緩やかなネットワークである。
 SDGsはESDを進める上での目標を多様なものにした。RCE設立当初から、ESDはバックキャスティングとフォアキャスティングを組み合わせる学習運動だと考えている。どちらの視座を用いるにしても、困難な課題に立ち向かう個人・集団づくりのための場づくりが必要不可欠である。本発表では、これまで私たちが取り組んできたESDのプラットフォームづくりに着目し、その特徴と可能性について論じてみたい。
 まず、プラットフォームとは、単体の主体による取り組みの限界を打破し、さまざまな社会資源を組み合わせて活用することをねらいとした仕組み(諏訪、2000)であり、つながりを創出するための基盤的な仕組みや場を意味する。個人や団体が必要に応じて集まることができて、その組み合わせが時々に変化する「メンバー」とそのメンバーが協働するために集まることを「場」と呼び、ある固定した空間としての場ではない。
 ここから、つながりを創出する仕組みについて紹介する。2007年に「ESDボランティア育成プログラム推進プロジェクト(ぼらばんプロジェクト)がスタートした。これは、ホームプログラムとトリッププログラムを通して、メンバーの学習者としての主体性を育成しつつ、NPO等の実践フィールドに出かけていくという仕組みで構成されていた(小林ほか、2010)。このトリッププログラムが、現在のESDスタディツアープログラムとして引き継がれている。ESDスタディツアープログラムは、RCE Hyogo-Kobeに所属するメンバーが行っている活動で、誰もがボランティアとして参加可能なイベントをESDスタディツアープログラムのwebサイトにアップし、web上で申し込めるシステムになっている。ぼらばんプロジェクトとの違いは、前者が紙や対面でマッチングをおこなっていたのに対し、後者はweb上でマッチングができるようになったことである。ESDの潜在的学習者(大学生や高校生のみならず一般の方、誰でも)がそのwebサイトを通してイベントを確認したり好きな時間に参加申し込みできるようにすることで、ESDへの入り口を入りやすくした。また、このプログラムの特徴は、ESDの多様な分野(環境保全・国際開発・人権・まちづくり等)のイベントが用意されているため、ESDの現場といいつつ環境保全のフィールドばかり、、という状況にならないことである。ただし、このwebサイトが常に誰かに閲覧されているわけではないため、イベントをたくさんアップしてもあまり利用されない。あるいは、参加したい分野のイベントが少なく参加のモチベーションが上がらない、といった課題が生じていた。この課題を解決するためには、イベントの登録数を増やし、その面白さを発掘しつつ、その面白さをESDの新規学習者に翻訳してイベントに誘いかけるコーディネート役が必要不可欠であった。そこで、2019年にESD platform WILLという組織が新たに設立された。これは、特に若い世代が中心となって組織されており、RCE Hyogo-kobeのメンバーと繋がりつつ、若い世代が実践に向かうレディネスを高めるためのプラットフォームである。RCE Hyogo-kobeの側も、100名もいる会員がどのような活動を行っているかを相互に理解していないという課題があったため、2021年からESD車座トークをスタートした。これは、RCE Hyogo-kobeのメンバーが自身の活動を紹介し、今後参画可能なイベントを紹介するものである。コロナ禍でオンライン会議ができるようになったことで、皆が気軽に集まれるようになったからこそできた場である。
 プラットフォームには、組織の特徴とされる統一的な意思や一貫した指揮命令が存在しないことが重要で、目的やミッションのもとに人々が集うものである。ESDプラットフォームの場合、目的がESDであり、ミッションがESDを進めるための様々な実践活動ということになるが、その具体をみんなで決めていくことに価値がある、また、プラットフォームのメンバーは、出入り自由で、プロジェクトは多様で、色々な参加者がいることが重要である。この場は、学習者からみると、プログラム、参加の度合い、自身の居場所について選択する余地が広い。これは、学習者が迷ったり立ち止まったりした時でも、つながりを保つことを容易にし、学習のなかでのゆらぎや省察、活動の継続を保証する点で重要である。出入り自由・多様なプロジェクト・多様な参加者を担保することで、「何か新しいこと」を「いつもとは違うメンバーと企てたり」「新たな接点から刺激が得られる」可能性をうむ。こうした特徴を維持しつつける事務局の働きがプラットフォームの質に影響すると考えている。