日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

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[U-14] 変動する地球に生きるための素養を育む地球教育の現状と課題

2021年6月5日(土) 15:30 〜 17:00 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:市川 洋、中井 咲織(京都光華女子大学こども教育学部こども教育学科)、熊谷 英憲(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、西 弘嗣(東北大学学術資源研究公開センター 東北大学総合学術博物館)、座長:市川 洋(なし)

16:00 〜 16:15

[U14-03] 高等学校地理歴史科「地理総合」における地球教育

★招待講演

*井田 仁康1 (1.筑波大学人間系)

キーワード:地球教育、地理総合、市民性教育

高等学校では、2022年から新しい学習指導要領による学習が年次進行で始まる。地理歴史科においては、「歴史総合」とともに「地理総合」が必履修科目となり、2022年度入学者からの高校生は「地理」を全員受けることになる。これまでの高校での地理の履修者は50%程度といわれていたが、地理の履修者は倍増することになる。高等学校での地理の必履修は1960年改訂の学習指導要領で、普通科において地理Aもしくは地理Bを履修しなければならなかったが、職業科では地理を履修しなくても卒業できた。地理の必履修については、この改訂が唯一であったのだが、全ての高校生に必履修となったのは初である。本報告は、必履修化となる「地理総合」における地球教育の展望と課題を明確にすることを目的とする。

必履修の「地理総合」は、国際理解や国際協力の学習を経て、持続可能な社会に担い手を育成しようとする。持続可能な社会の担い手の育成とは、言い換えれば市民性教育である。市民性教育を、特に世界的視野で国の境をこえた観点を強調すれば、グローバルシティズンシップ教育ということができよう。グローバルシティズンシップ教育は、世界的な観点から国際理解をすすめ、国際協力を担い、地球規模での持続可能な社会の担い手を育成しようとする教育である。一方、自然現象の理解に基づいて持続可能な地球の担い手を育成するのが「地球教育」である。グルーバルシティズンシップ教育も地球教育も相反するものではなく、市民といった人を核として考えていくのか、自然現象を核として考えていくのかのアプローチの違いはあるにせよ、その教育の目的は同じといえる。特に、地理では自然現象にかかわる人の営み、自然と人間活動のかかわりは主要な学習のテーマであり、グローバルシティズンシップ教育をあわせもった地球教育といえよう。すなわち、「地理総合」は、社会科でいわれるグローバルシティズンシップ教育を含みこんだ、自然現象にも十分な目配りをした地球教育をおこなう科目ということができる。

しかし、地理歴史科である「地理総合」にはグローバルな視点だけでなく、日本人としての資質、日本人としてのアイデンティティの育成も求められている。つまり、地球的視野からの地球教育を図る一方で国益を考え日本という国家のもとでの国民としての自覚も育成すべき科目となっている。国益を優先する地球教育とするのか、グローバルを強調する地球教育なのか、グローバルな観点からの日本人としてのアイデンティティを強めていこうとするのかといった大きな課題もある。少なくても現状では、学習指導要領では、日本人としてのアイデンティティをもった地球教育の推進ということになろう。国ということを前提にした地球教育がある一方で、国をこえたグローバルな地球教育がある。地理歴史科「地理総合」では、こうした国を前提とした地球教育とグローバルなそれとのバランスをとった教育が求められることになる。地球教育を扱う教師には、地球に関する広い専門的な事実認識と深い洞察力が必要とされる。それとともに、これらの教育上の課題を教師はしっかり認識する必要がある。こうした能力や認識をもつ地理や地学を教える教員の養成は喫緊の課題となる。