日本地球惑星科学連合2021年大会

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[J] 口頭発表

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[U-14] 変動する地球に生きるための素養を育む地球教育の現状と課題

2021年6月5日(土) 15:30 〜 17:00 Ch.01 (Zoom会場01)

コンビーナ:市川 洋、中井 咲織(京都光華女子大学こども教育学部こども教育学科)、熊谷 英憲(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、西 弘嗣(東北大学学術資源研究公開センター 東北大学総合学術博物館)、座長:市川 洋(なし)

16:15 〜 16:30

[U14-04] 地学をよく知らない小学校・中学校・高等学校教員をどうサポートするか

★招待講演

*星 博幸1 (1.愛知教育大学自然科学系理科教育講座地学領域)

キーワード:地学教育、理科教育、学校教員

趣旨:小学校,中学校,高等学校で地学に関する内容を教えている教員は大学で地学を専攻した人だけではない。むしろ地学をよく知らない(地学に慣れ親しんでいない)教員のほうが多い。地学の専門家集団はそうした教員を力強くサポートし,教員に地学のおもしろさと奥深さを感じてもらいながら教員の知識レベルの底上げをはかる必要がある。それが学校における地学教育の質的向上に大きく貢献し,ひいては国民の地学リテラシーの向上につながると期待できる。

 学校教育教科「理科」において,地学(あるいは地球科学,地球惑星科学,地球宇宙科学)に直接関係する学習は小学3年から始まる。小学校理科で扱う範囲は実に広いが,周知のように多くの小学校は学級担任制であるため,一人の教員が国語,算数,社会などと並行して理科を教えることが多い。大学時代に理科を専攻しなかった教員は,多忙な中でも教員研修や同僚教員などのサポートを受けながら研鑽して知識習得と授業づくり(教材開発を含む)に励むことが求められる。
 中学校では専科教員が理科を担当するのが一般的である。多くの中学校では,教員はすべての分野(物化生地)の内容を一人で教える。小学校と同様に中学理科で扱う範囲も広い。理科専科とはいえ教員にも得意分野とあまり得意でない分野があると推測される。例えば,高校で物理・化学・生物を学んだ後に大学で化学の学科・研究室に所属した教員は,たとえ大学の教科教育や教科内容の授業で化学以外の分野について広く浅く学んだとしても,中学理科の地学分野の内容をしっかり教えることは容易でないと想像される。そのため,小学校の場合と同様,教員は部活動等で多忙な中でも研修や同僚などのサポートを受けながら研鑽に努めることが求められる。
 高校も中学校と同様に専科教員が理科を担当するが,複数の専科教員がそれぞれの比較的得意な科目を担当することが多い。しかし事情によりあまり得意でない,あるいは全然得意でない(自信のない)科目を任される場合もある。大学で化学の学科・研究室に所属した上述の例えを想像すると,勤務校で科目「地学基礎」を新たに開講することになったが大学時代に地学を専攻した教員が同僚にいないために,その化学専門の教員が地学基礎を教えるといった場合である。あるいは,科目「科学と人間生活」の中で物化生地の基礎的トピックについてまんべんなく教えるといった場合も考えられる。そのような困難に直面した教員は,やはり研修や同僚などのサポートを受けながら研鑽を積むことが求められる。
 教員研修で小中高教員と接すると,地学の根本的なところを誤解していたり知識が整理できず混乱していたりする教員が実に多いことがわかる。そうした誤解や混乱あるいは実験・実習等の未経験が「地学系の授業をできればしたくない」という地学敬遠の原因の一つになっている可能性が考えられる。大学で地学を専攻した教員はこうした問題が比較的少ないと思われるが,小中高で理科を受け持つ教員には地学をよく知らない(地学に慣れ親しんでいない)人のほうが多いことを地学専門家集団は強く認識する必要がある。専門家集団は地学を得意とする教員を育成することに加えて,地学をよく知らない現職教員も力強くサポートし,教員に地学のおもしろさと奥深さを感じてもらいながら教員の知識レベルの底上げをはかる必要がある。多くの教員は自分が「わかった!」「おもしろい!」「これは使えそう!」と感じたことを児童・生徒に伝えたいと思うに違いない。そのようにサポートすることが,学校における地学教育の質的向上に大きく貢献し,ひいては国民の地学リテラシーの向上につながると期待できる。
 それでは地学の専門家集団は教員をどのようにサポートできるか? コロナ禍でZoomやMicrosoft Teamsなどのオンライン・ツールが急速に普及したため,学会等の学術団体はそれを活用したレクチャーや,教員からの質問や相談に答える相談会などを容易に実施できると考えられる。また,教育現場で教員が利用したり作成できたりする教材についてホームページで情報提供することもできると考えられる。各地の教育委員会・教育センター等が実施する教員研修にも協力できるかもしれない。どのようなサポートが求められているかについて教育現場を対象にアンケート調査を行えば,より充実した内容のサポートを提供できると思われる。