日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS02] 大気の鉛直運動を基軸とした地球環境学の新展開

2022年5月22日(日) 15:30 〜 17:00 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 正樹(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:佐藤 薫(東京大学 大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻)、岡本 創(九州大学)、コンビーナ:丹羽 洋介(国立環境研究所)、座長:清木 達也(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、佐藤 正樹(東京大学大気海洋研究所)、岡本 創(九州大学)

16:30 〜 16:45

[AAS02-11] 星のスペクトル観測による昭和基地上空の水蒸気量の推定

*杉山 玄己1高橋 幸弘1高木 聖子1 (1.北海道大学大学院理学院 宇宙理学専攻)


キーワード:水蒸気、地上観測

地球大気に含まれる水蒸気は、大気中の様々な現象を理解するために重要である。特に南極圏の昭和基地では、水蒸気の凝結により引き起こされる雪や暴風雪を予測することは基地の安全を守るうえで重要である。そのためには、大気中に含まれる水蒸気量の変化を測定することが必要である。しかし、現在行われている昭和基地周辺での水蒸気観測は、半日に一回のラジオゾンデ観測と地表面での湿度観測であり、時間的・空間的な限界が存在する。そこで本研究では、標準星の分光観測により地球大気の水蒸気カラム量を推定する方法を提案する。
 大気中の水蒸気を測定する手法としてはラジオゾンデによる観測 Hicke et al. (1999)やGPSを利用した観測 Wayan et al. (2008)、そしてAura衛星からのMicrowave Limb Sounder (EOS MLS)観測Waters et al. (2006)などが知られている。今回の方法は、スペクトルが広く知られている標準星リストVizieR Online Data Catalog:Moscow Spectrophotometric Catalog (MSC) (Glushneva et al., 1998)を利用し、これらの星を地上から観測してそのスペクトルを比べ、視線方向の大気中の水蒸気による影響を推定する。観測は、西の空を中心とした10数個の天体を10分~数10分の間隔で撮影することによって行う。1サイクルにかかる時間はおよそ1時間半である。この観測を2021年2月から同年10月までの晴れの夜に実施した。吸収の深さの変化を調べるため、Turnbull et al. (2006)により示された735 nmに存在するH20の吸収と770 nmに存在するO2の吸収比をとった。その結果、地表面での水蒸気圧が最大300 Paである昭和基地においても、水蒸気の吸収をとらえることに成功した。これにラジオゾンデによる垂直方向の水蒸気分布のデータなどと組み合わせることで、吸収比と水蒸気カラム量を結びつけることができる。将来的には観測時の星の位置とカラム量から、水蒸気の水平分布を推定出来る可能性もある。初期解析の結果、星の水蒸気吸収と地上の水蒸気圧の変化に明らかな相関は見られなかった。このことは、地上より上の対流圏に存在する水蒸気量が吸収比に影響することを示している可能性もあり、今後詳細な解析を進める予定である。