日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CC 雪氷学・寒冷環境

[A-CC29] アイスコアと古環境モデリング

2022年5月26日(木) 10:45 〜 12:15 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)、コンビーナ:竹内 望(千葉大学)、阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所)、コンビーナ:植村 立(名古屋大学 環境学研究科)、座長:阿部 彩子(東京大学大気海洋研究所)、川村 賢二(情報・システム研究機構 国立極地研究所)

12:00 〜 12:15

[ACC29-12] ネパールヒマラヤ,トランバウ氷河で掘削されたアイスコアの不溶性不純物の顕微鏡観察

*小西 ふき1竹内 望1對馬 あかね1江刺 和音2植村 立3的場 澄人4飯塚 芳徳5藤田 耕史2 (1.千葉大学、2.名古屋大学大学院環境学研究所、3.名古屋大学 、4.北海道大学低温科学研究所環オホーツク観測研究センター、5.北海道大学低温科学研究所)

山岳氷河から掘削されたアイスコアには,大気から供給される鉱物粒子や花粉,氷河上で繁殖する微生物といった不溶性不純物が含まれている.これらの不溶性不純物は,過去環境のプロキシーとしてだけでなく,その供給量の季節性を利用して年層決定の指標としても利用されている.本研究では,2019年にネパールヒマラヤのトランバウ氷河の標高5860 mの雪原で掘削されたアイスコアに含まれる不溶性不純物を顕微鏡分析によって明らかにし,それぞれの過去環境のプロキシーとしての可能性および年層決定の指標としての有効性を検討した.深さ81 mのアイスコアの深さ4 m-10 mの部分について顕微鏡で観察した結果,花粉や鉱物粒子,藻類細胞,菌類胞子などの不溶性不純物が含まれていることが明らかになった.花粉は,マツ属,モミ属,ツガ属,カバノキ属,ハンノキ属,ヨモギ属の合計6種類が含まれていた.アイスコア中の花粉濃度の深度プロファイルは,複数のスパイク状のピークを示したが,種によってそのピークの数は異なり,その中でマツ属の花粉が毎年の春の層を示している可能性が高いことがわかった.春と秋の飛散時期の異なる種類の花粉が同じ深度にピークが見られたことは,夏の降雪の層が融解によって消失していることを示唆している.花粉ピークの深度での酸素安定同位体比は,その一部が夏の降雪に対応する極小値を示したものの,半数近くははっきりとした極小値がなかった,このことは,このアイスコアの年層決定には,酸素安定同位体比よりも花粉濃度のほうが適していることを示している.鉱物粒子の濃度も複数のピークがみられ.春の花粉のピークと深さがほぼ一致した.これは乾季である冬から春に供給されるダスト量の増加に対応するものと考えられる.藻類細胞は,高濃度のピークが3か所のみで見られ,特定の年で繁殖した雪氷藻類であると考えられる.藻類の存在は,氷河表面での藻類繁殖に必要な長期の融解期間に対応する夏の激しい融解または年層欠損を示していると考えられる.以上の結果から,このアイスコアでは,春に飛散する花粉の合計濃度を主として,鉱物粒子や藻類を補助的に用いることが年層決定に有効であることがわかった.