日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG40] 沿岸海洋生態系─2.サンゴ礁・藻場・マングローブ

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (9) (Ch.09)

コンビーナ:梅澤 有(東京農工大学)、コンビーナ:樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)、中村 隆志(東京工業大学 環境・社会理工学院)、コンビーナ:渡辺 謙太(港湾空港技術研究所)、座長:梅澤 有(東京農工大学)、樋口 富彦(東京大学大気海洋研究所)、中村 隆志(東京工業大学 環境・社会理工学院)、渡辺 謙太(港湾空港技術研究所)

11:00 〜 13:00

[ACG40-P03] セルラーゼ保有生物の存在下における準難分解性有機物の分解特性

*角 美咲妃1梅澤 有1宮田 達1、劉 文2、堀川 祥生1、多羅尾 光徳1、小瀬 亮太1、桑江 朝比呂3 (1.東京農工大学、2.京都大学、3.港湾空港技術研究所)

キーワード:ヤマトシジミ、内源性セルラーゼ、準難分解性有機物

近年、水圏生態系での有機物分解特性は、ブルーカーボンとして注目されている炭素固定の観点で,また,プラスチック代替物としての木質マテリアルの自然分解特性の観点で、着目されている。現在行われている水圏での準難分解性有機物分解の研究は,微生物の分解作用のみを対象としているものがほとんどである。一方で,腸内等での共生微生物ではなく自身のゲノム由来のセルラーゼ遺伝子, すなわち内源性セルラーゼ遺伝子を持つ底棲の無脊椎動物の存在が多く報告されてきており,これら大型生物がセルロースなどの有機物分解に与える寄与は無視できないほど大きいと考えられる。本研究では,内源性セルラーゼを分泌する二枚貝であるヤマトシジミをモデル生物として飼育培養し,水圏での分解特性が着目されている有機物試料が,二枚貝の存在下でどのように分解されていくか調査を行った。
 生物試料として,内源性セルラーゼを分泌するヤマトシジミと,分泌しない二枚貝であるアサリを用意した。分解特性を調べる有機物としては,ブルーカーボンとして着目されている海草(アマモ),プラスチックの代替となりうるパルプ試料を用いた。実験では,ヤマトシジミ水槽,アサリ水槽,二枚貝のいない水槽(control)の三種を用意し,それぞれに試料を入れて培養することで分解特性を調査した。培養実験はおよそ二か月間,期間を分けて実施した。実験終了後は,試料にたいして乾燥重量差の算出,構造解析のための赤外分光分析,セルラーゼ活性をみるための還元糖産生量定量を行い,培養海水に対して微生物群集組成解析とDAPI染色による微生物計数を行った。また実験に用いた二枚貝がセルラーゼを分泌しているか確認するため,CMC寒天培地を用いたセルラーゼ検出を行った。
 ヤマトシジミの水槽をcontrolと比較すると,パルプ試料の減少量はヤマトシジミを入れた水槽のほうが多かった。また,ヤマトシジミの糞からセルラーゼが検出された。以上より,ヤマトシジミの存在でセルロース試料の分解が促進されることが確認され,シジミの排出するセルラーゼがセルロースに働いている可能性が高いことが示唆された。一方で,アサリの水槽とヤマトシジミの水槽の比較では,パルプ試料の減少量はアサリのほうが多くなった。アサリは共生微生物によるセルラーゼ活性は持つが,内源性セルラーゼは分泌せず,セルラーゼ活性はヤマトシジミに劣ることが知られている1)。減少量がアサリ>シジミとなったのは,実験開始直後にアサリの一部が斃死して富栄養化したことや,微生物組成の変化に起因したと推察される。また,パルプ試料と対照的にアマモは3つの水槽間で有意差(p<0.05)が見られなかった。二枚貝の存在は,パルプ試料の分解を促進したが,アマモの分解には影響しなかったといえる。これは,アマモの葉の表面がクチクラ層などに覆われてセルロースの露出が少ないことや,忌避物質の存在が原因であると考えられる。

【引用文献】1) Sakamoto et al., 2009. The Journal of Experimental Biology, 212, 2812-2818