日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG42] 沿岸海洋⽣態系─1.⽔循環と陸海相互作⽤

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (10) (Ch.10)

コンビーナ:杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、コンビーナ:山田 誠(龍谷大学経済学部)、藤井 賢彦(北海道大学大学院地球環境科学研究院)、コンビーナ:小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、座長:小森田 智大(熊本県立大学環境共生学部)、杉本 亮(福井県立大学海洋生物資源学部)、山田 誠(龍谷大学経済学部)

11:00 〜 13:00

[ACG42-P02] 水産有用二枚貝類の粒状排泄物に含まれる生元素含量の特徴:メタデータ解析によるアプローチ

*小森田 智大1 (1.熊本県立大学環境共生学部)

キーワード:二枚貝、生元素、バイオデポジッション、ストイキオメトリー

二枚貝の養殖量は世界中で増加しており、2016年の消費量は年間1546万トンに達し、海洋における漁業生産量の約11%を占める(FAO 2018)。養殖される二枚貝は、アサリ類、ホタテ類、ムール貝類、カキ類の4分類群が主であり(以下、水産有用二枚貝)、特にアサリ類はそのシェアが3割を超える最も養殖量が多い分類群である。二枚貝養殖は天然の植物プランクトンを餌とし、人工的な給餌をしないことから、環境への負荷が小さいと考えられてきた。しかし、二枚貝類は数10 µm程度の植物プランクトンを主体とする微細な粒子を取り込み、糞として数mmに達する巨大な粒子を体外に排泄することで、水平方向に流れ去るはずだった粒子の海底への沈降を促進する。二枚貝を過密に養殖した結果、糞が海底に過剰にたまり、養殖場の直下やその周辺の海底を富栄養化させる一因となる。そのため、持続的な二枚貝の養殖には、二枚貝から排泄される糞の性質を正確に捉える必要があるものの、その有機物含量に関するまとまった知見は無い。そこで本研究では、文献調査を行い、糞の性質の中でも有機物含量(特に炭素、窒素、リン含量)と餌環境に着目し、その情報を整理する。次に、糞の炭素含量と餌環境との関係を理解するために統計解析を実施する。最後に糞の元素比とレッドフィールド比を比較することで、二枚貝養殖が海域の生元素循環に与える影響を考察する。
糞の有機物含量はPRISMAガイドラインに則って文献調査した。検索には“Web of Science”を用い、1985年以降に出版された文献を対象にした。文献情報の検索には、複数のキーワード(biodeposition、fecesなど)を用いてダウンロードした文献1841報に加えて、二枚貝類が生物地球科学的循環に及ぼす影響について取り扱った文献を読み進める内に入手した163報を用いた。これらの文献から、水産有用二枚貝の糞を扱っていない文献を除外し、53報の文献を得た。
得られた糞の有機物含量のデータ数について、炭素および窒素は約135である一方、リン含量は49と限られていた。分類群毎のデータ数に着目すると、全ての元素についてイガイ類の報告が最も多く全体の約50%を占めた一方、アサリ類についてはわずか5%に過ぎなかった。さらにカキ類についてはリン含量のデータ数が0であった。全ての分類群のデータを用いた解析したところ、糞の炭素含量と懸濁物の炭素含量の間には強い正の相関関係があり、その傾きから糞の炭素含量は餌の炭素含量の約14%となることが示された。次に、糞の元素比は C:N:P=141:13.2:1となり、レッドフィールド比(C:N:P=106:16:1)と有意に異なることが示された。このように水産有用二枚貝類は生産活動を通して粒子の有機物含量を大幅に低下させるとともに、海域における元素比を大きく変える可能性があると考えられる。今後、分類群間における違いを明確にする必要がある。