日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-CG 大気海洋・環境科学複合領域・一般

[A-CG43] 北極域の科学

2022年5月27日(金) 13:45 〜 15:15 106 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:Ono Jun(JAMSTEC Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)、コンビーナ:両角 友喜(北海道大学 大学院農学研究院)、島田 利元(宇宙航空研究開発機構)、コンビーナ:堀 正岳(東京大学大気海洋研究所)、座長:島田 利元(宇宙航空研究開発機構)、両角 友喜(北海道大学 大学院農学研究院)

13:45 〜 14:00

[ACG43-12] アラスカ・グルカナ氷河における雪氷藻類に寄生するツボカビの感染率

*小林 綺乃1竹内 望1、鏡味 麻衣子2 (1.千葉大学、2.横浜国立大学)


キーワード:ツボカビ、雪氷藻類、菌類、クリオコナイトホール、氷河、アラスカ

北極圏の氷河では,暗色化による氷河の融解が加速している.この原因の一つが,暗色の色素を持つ雪氷藻類という光合成微生物である.雪氷藻類の繁殖は,雪氷上を色付けて表面アルベドを下げることで,雪氷の融解を促進することが明らかになっている.この藻類に寄生し,殺すことで氷河の暗色化を抑える可能性のある微生物が,ツボカビである.ツボカビとは,鞭毛をもつ遊走子という細胞を作る菌類の仲間で,寄生性のツボカビは,寄主の個体群の季節変動や寄主の種の絶滅の要因になることが報告されており,生態系に大きな影響力をもつことが明らかになっている.したがって,雪氷藻類に寄生するツボカビの生態を理解することは,氷河生態系や雪氷の融解過程を理解する上で重要である.しかしながら,雪氷藻類に寄生するツボカビについては,その実態はまだほとんど明らかになっていない.そこで本研究では,多くの雪氷生物が生息し,藻類による氷河の暗色化も報告されている,アラスカ州グルカナ氷河において,氷河上の異なる環境条件で繫殖する雪氷藻類に寄生するツボカビを観察し,ツボカビの形態と分布,藻類への感染率を明らかにすることを目的とした.
2015年8月に,アラスカ州グルカナ氷河の標高の異なる5地点から採取されたクリオコナイトホールと氷表面,および積雪表面のサンプルの分析を行った.サンプルは,菌類(キチン質)を特異的に染色する蛍光試薬カルコフロールホワイトを加え,蛍光顕微鏡で雪氷藻類に寄生しているツボカビの形態的特徴を観察し,さらに雪氷藻類の寄生の有無をカウントして藻類への感染率を算出した.
顕微鏡観察の結果,雪氷藻類のAncylonema属の2種,Chloromonas sp.,Sanguina sp.の細胞に,それぞれ形態の異なる5つのタイプのツボカビが寄生していることが明らかになった.藻類種によって異なるツボカビが寄生していることは,ツボカビが特定の藻類を選択して寄生していることを示唆している.ツボカビによる藻類細胞の感染率を求めた結果,藻類によって感染率が異なることがわかった.これは,藻類種によって細胞の表面積や細胞壁の厚さや形状に関係があることを示唆している.氷河表面の環境の違いによる感染率を求めた結果,すべての藻類においてクリオコナイトホールで最も高かった.これは,水が安定して存在しその移動が少ないクリオコナイトホールがツボカビの繁殖場所として適していることを示唆している.以上の結果から,アラスカの氷河では,藻類種によって異なるツボカビが寄生していること,さらに氷河上でもクリオコナイトホールでツボカビが集中的に繁殖していることが明らかになった.