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[AGE30-01] 高精度メタン測定技術による断層・褶曲軸周辺のガス移動経路の特定
キーワード:メタン、断層、キャビティリングダウン分光分析法、ガス移動、探査、濃度測定
1.はじめに
岩盤内では,大小の亀裂が選択的な流体や物質の移行経路となる.このため,石油・天然ガスの探鉱貯留層管理,地熱・温泉開発,二酸化炭素地下貯留,放射性廃棄物の地層処分におけるサイト選定や安全評価などにおいて,流体移行経路となる断層や亀裂の分布や透過特性の評価が重要である.著者らは,グリーンハウスガスの測定でしばしば用いられているキャビティーリングダウン分光法(Cavity Ring-down Spectroscopy)を用いて,大気中のメタン濃度アノマリから,地下から地表につながる流体移行経路を特定する技術に関する研究を行っている.今回,同技術の実用化に向けたデータの蓄積を図るため,新第三系珪質岩が分布する北海道幌延町において,地表の大気中メタン濃度測定を実施した.測定箇所には,南北方向に軸を持つ褶曲構造が発達しており,大曲断層が同町を南北に縦断している.大曲断層周辺では,大正~昭和初期にかけて,油・ガス田開発を目的とした実施された調査で,地表に油・ガス徴が確認されており,地下から地表に到達する流体移行経路の存在が示唆される.本報では,徒歩測定による大気中ガス濃度の測定結果から想定される,大曲断層や背斜軸周辺の地下流体の移行経路について述べる.
2.測定概要
大曲断層およびその東側に分布する大曲背斜に交差する沢や林道において,可搬型CRDS測定装置(G4301:米国Picarro社製)を用いて徒歩によるガス濃度測定を行った.同装置は,メタン濃度を3 ppbの精度で応答時間1秒以下で測定可能である.測定データはWi-Fiで無線接続されたタブレット上でリアルタイムに確認でき,GPSによる位置情報とともにハードディスクに保存される.
3.測定結果
今回の徒歩測定では,大曲背斜,大曲断層周辺,断層西側の勇知層/声問層境界付近,の各エリアで特徴的なメタン濃度分布が確認された.
大曲背斜と交差する林道で実施した2回の測定において,背斜軸近傍の幅約60 mの範囲で,最大6.9 ppmおよび31.9 ppmのメタンアノマリが確認された.メタン濃度の上昇区間で,表土を5 cmほど剥いで測定したところ,250~350 ppmの高濃度のメタンが検知された.ガス試料を採取し,地化学分析を実施した結果,熱分解起源である可能性が示された.
大曲断層と交差する3つの沢で実施した測定では,各ルートとも大曲断層直上では顕著なメタン濃度上昇は見られなかったものの,断層両側幅約150 mの範囲に,約20~50 mの間隔をおいて,濃度2~7 ppm程度のスパイク状に分布するメタンアノマリが確認された.このうちいくつかは,稚内層硬質頁岩の開口亀裂で検出された.
大曲断層西側においては,勇知層/声問層境界の周辺で,最大40 ppm程度のメタン濃度を検知した.また,勇知層/声問層境界の延長上の草地に間欠的なメタンの滲出を伴う泥だまりを確認した.
4.考察とまとめ
調査地域では,過去にコントロールボーリングによる調査や反射法地震探査などの地質構造調査(電力中央研究所,2005)が実施されている.反射法地震探査では,大曲断層の東側に背斜構造が確認されており,断層前縁(西側)では,分岐断層が推定されている.また,ボーリングコアやボアホールテレビ画像の観察結果から,主断層の前縁部に,潜在背斜構造が推定されている.さらに,ボーリング孔内では,大曲断層の想定通過位置を含む幅広い区間で油・ガス徴が認められている.
上記の地質構造に関する既往の知見と今回の測定結果から,大曲断層周辺には,①背斜軸の割れ目内を通って地上に滲出する経路,②大曲断層沿いの割れ目帯に沿って移行する経路,③前縁断層沿いに移行する経路,の3つのガス移行経路が存在すると考えられる.このうち,②の経路については,①,③と比較してメタン濃度が低く,移行経路の透過性が低いと考えられる.
今後,さらなるデータの蓄積が必要であるが,本測定技術は,地表におけるガス滲出箇所の分布を迅速かつ直接的に把握できるため,将来,広域スケールを対象とした流体移動経路探査の有力なツールの一つになることが期待される.
引用文献
電力中央研究所(2005):平成17年度地層処分技術調査等(ボーリング技術高度化調査)報告書.
岩盤内では,大小の亀裂が選択的な流体や物質の移行経路となる.このため,石油・天然ガスの探鉱貯留層管理,地熱・温泉開発,二酸化炭素地下貯留,放射性廃棄物の地層処分におけるサイト選定や安全評価などにおいて,流体移行経路となる断層や亀裂の分布や透過特性の評価が重要である.著者らは,グリーンハウスガスの測定でしばしば用いられているキャビティーリングダウン分光法(Cavity Ring-down Spectroscopy)を用いて,大気中のメタン濃度アノマリから,地下から地表につながる流体移行経路を特定する技術に関する研究を行っている.今回,同技術の実用化に向けたデータの蓄積を図るため,新第三系珪質岩が分布する北海道幌延町において,地表の大気中メタン濃度測定を実施した.測定箇所には,南北方向に軸を持つ褶曲構造が発達しており,大曲断層が同町を南北に縦断している.大曲断層周辺では,大正~昭和初期にかけて,油・ガス田開発を目的とした実施された調査で,地表に油・ガス徴が確認されており,地下から地表に到達する流体移行経路の存在が示唆される.本報では,徒歩測定による大気中ガス濃度の測定結果から想定される,大曲断層や背斜軸周辺の地下流体の移行経路について述べる.
2.測定概要
大曲断層およびその東側に分布する大曲背斜に交差する沢や林道において,可搬型CRDS測定装置(G4301:米国Picarro社製)を用いて徒歩によるガス濃度測定を行った.同装置は,メタン濃度を3 ppbの精度で応答時間1秒以下で測定可能である.測定データはWi-Fiで無線接続されたタブレット上でリアルタイムに確認でき,GPSによる位置情報とともにハードディスクに保存される.
3.測定結果
今回の徒歩測定では,大曲背斜,大曲断層周辺,断層西側の勇知層/声問層境界付近,の各エリアで特徴的なメタン濃度分布が確認された.
大曲背斜と交差する林道で実施した2回の測定において,背斜軸近傍の幅約60 mの範囲で,最大6.9 ppmおよび31.9 ppmのメタンアノマリが確認された.メタン濃度の上昇区間で,表土を5 cmほど剥いで測定したところ,250~350 ppmの高濃度のメタンが検知された.ガス試料を採取し,地化学分析を実施した結果,熱分解起源である可能性が示された.
大曲断層と交差する3つの沢で実施した測定では,各ルートとも大曲断層直上では顕著なメタン濃度上昇は見られなかったものの,断層両側幅約150 mの範囲に,約20~50 mの間隔をおいて,濃度2~7 ppm程度のスパイク状に分布するメタンアノマリが確認された.このうちいくつかは,稚内層硬質頁岩の開口亀裂で検出された.
大曲断層西側においては,勇知層/声問層境界の周辺で,最大40 ppm程度のメタン濃度を検知した.また,勇知層/声問層境界の延長上の草地に間欠的なメタンの滲出を伴う泥だまりを確認した.
4.考察とまとめ
調査地域では,過去にコントロールボーリングによる調査や反射法地震探査などの地質構造調査(電力中央研究所,2005)が実施されている.反射法地震探査では,大曲断層の東側に背斜構造が確認されており,断層前縁(西側)では,分岐断層が推定されている.また,ボーリングコアやボアホールテレビ画像の観察結果から,主断層の前縁部に,潜在背斜構造が推定されている.さらに,ボーリング孔内では,大曲断層の想定通過位置を含む幅広い区間で油・ガス徴が認められている.
上記の地質構造に関する既往の知見と今回の測定結果から,大曲断層周辺には,①背斜軸の割れ目内を通って地上に滲出する経路,②大曲断層沿いの割れ目帯に沿って移行する経路,③前縁断層沿いに移行する経路,の3つのガス移行経路が存在すると考えられる.このうち,②の経路については,①,③と比較してメタン濃度が低く,移行経路の透過性が低いと考えられる.
今後,さらなるデータの蓄積が必要であるが,本測定技術は,地表におけるガス滲出箇所の分布を迅速かつ直接的に把握できるため,将来,広域スケールを対象とした流体移動経路探査の有力なツールの一つになることが期待される.
引用文献
電力中央研究所(2005):平成17年度地層処分技術調査等(ボーリング技術高度化調査)報告書.