日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-HW 水文・陸水・地下水学・水環境

[A-HW27] 都市域の水環境と地質

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (10) (Ch.10)

コンビーナ:林 武司(秋田大学教育文化学部)、コンビーナ:宮越 昭暢(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)、座長:林 武司(秋田大学教育文化学部)、宮越 昭暢(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター 活断層・火山研究部門)

11:00 〜 13:00

[AHW27-P01] 東京都品川区の浅層地下水から検出された医薬品類(PPCPs)とその濃度

★招待講演

*伊東 優希1安原 正也2李 盛源3林 武司4、小西 千絵5 (1.立正大学大学院 地球環境科学研究科、2.立正大学地球環境科学部、3.立正大学 地球環境科学部 環境システム学科 、4.秋田大学教育文化学部、5.ムラタ計測器サービス株式会社)

キーワード:東京都、都市域、浅層地下水、下水漏水、医薬品類(PPCPs)

1995年の阪神・淡路大震災を機に,都市域の「自己水源」である地下水は防災・緊急用水(消火用水,生活用水)として,さらに現在は環境用水(親水環境の創生・保全,ヒートアイランド現象の緩和)として大きな注目を集めている。しかし,長年にわたり行政や人々の関心の外に置かれてきたこと,また人工構築物中の水(水道水や下水)と地下水の交流によって地下の水文環境が著しく複雑化していることも一因となり,水質や利用可能量など,都市域の地下水における詳細な実態は質・量とも不明のままである。そこで,2019年より,東京都品川区北品川・南品川地区の10本の浅井戸(いずれも深度10 m以浅)を対象として,都市域の浅層地下水システムの解明を目的とした一連の研究を実施している。北品川地区では,東西約100 m,南北約60 mと極めて狭い範囲内に7本の井戸が分布しており,2019年2月と同年7月の浅層地下水は,ECがそれぞれ38.6~67.6 mS/m,38.5~53.1 mS/m,Cl濃度が17.4~31.9 mg/L,15.7~42.3 mg/L,NO3濃度が1.6~34.1 mg/L,0.0~34.8 mg/Lと地点によって大きな変動を示した。また,浅層地下水形成に果たす(1)降水浸透水,(2)水道漏水,(3)下水漏水の役割を酸素安定同位体比(δ18O-H2O)とCl濃度に基づく3成分混合解析によって評価した結果,浅層地下水に占める下水漏水の割合は数%~数十%と推定されている(伊東ほか,2020)。
 現在,研究対象地域の浅層地下水への下水漏水混入の有無とその程度について,マルチトレーサーを用いてさらに検証を行っている。本発表ではその一つである医薬品類(PPCPs)の結果について報告する。 2021年8月に,北品川地区の3地点および南品川地区の1地点において浅層地下水を採水し,医薬品類のスクリーニング分析および内部標準法による定量分析を行った。その結果,北品川地区の1地点においては6成分の医薬品類(Bezafibrate:高脂血症用剤,Caffeine:強心剤,Carbamazepine:抗てんかん剤,Crotamiton:解熱鎮痛消炎剤,N,N-diethyl-m-tolamide:昆虫忌避剤,Sulpiride:消化性潰瘍剤)が高濃度で検出された。中でも,Bezafibrateは4,400 ng/Lと極めて高濃度であった。北品川地区の別の地点では4成分の医薬品類(Bezafibrate,Carbamazepine,Crotamiton,N,N-diethyl-m-tolamide)が,さらに残りの1地点でもN,N-diethyl-m-tolamideが検出された。また,南品川地区の浅層地下水からは2成分(Carbamazepine,N,N-diethyl-m-tolamide)の医薬品類が検出された。これら医薬品類の分析結果は,上述した3成分混合解析による地下水への下水混入率の推定結果とも整合的であった。本来は自然界に存在しないはずの人工化合物が都市域の地下水から高頻度・高濃度で検出されたことで,本研究対象地域では下水漏水が各所で発生し,それが点源として浅層地下水の涵養源になると同時に,負荷された医薬品類は地下水水質に重大な影響を与えている実態が明らかとなった。