日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS13] 陸域海洋相互作用ー惑星スケールの物質輸送

2022年5月24日(火) 09:00 〜 10:30 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:山敷 庸亮(京都大学大学院総合生存学館)、コンビーナ:佐々木 貴教(京都大学 大学院理学研究科 宇宙物理学教室)、升本 順夫(東京大学大学院理学系研究科)、コンビーナ:Behera Swadhin(Climate Variation Predictability and Applicability Research Group, Application Laboratory, JAMSTEC, 3173-25 Showa-machi, Yokohama 236-0001)、座長:山敷 庸亮(京都大学大学院総合生存学館)、佐々木 貴教(京都大学 大学院理学研究科 宇宙物理学教室)

09:45 〜 10:00

[AOS13-04] 宇宙養殖

*遠藤 雅人1 (1.東京海洋大学)

キーワード:水産養殖、食物連鎖、重力環境、物質フロー

人類が地球外で活動を行うためには様々な技術を駆使して生命を維持する必要がある。特に地球との距離があり、地球からの物資の供給を円滑に行うことが難しい火星等での居住には、物質循環を行いながら、食料を生産し、生活を行う制御生態系生命維持システムが必要である。その中で食料生産は食料の供給のみならず、廃棄物の再利用や酸素再生をも担う。これまで多くの植物栽培の研究が地上および軌道上で行われている。同様に微小重力下での動物実験では古くから魚類を用いた様々な実験が行われてきており、飼育装置の開発を含めた飼育技術の確立がなされ、宇宙への適応性も高いことが示されている。そこで我々は宇宙の食料生産に魚類養殖を適用することで動物性蛋白質の供給という更に高次の食料生産技術の開発を目指して研究を進めてきた。この研究は食物連鎖を利用した物質循環を行いながら食用となる水棲生物を生産すること、適用される水棲生物が異なる重力環境下でどのような遊泳行動や摂餌行動を行うかという飼育に関わる生物学的特性を把握することを目的として行った。
本研究では食用魚のティラピアOreochromis niloticusの生産を目的とした。まず、物質循環型の魚類養殖の検討では、ティラピアの飼育排水や飼育した際の固形沈殿物を肥料とし、微細藻類であるクロレラChlorella vulgarisを餌としてタマミジンコMoina macrocopaを生産してティラピア稚魚の餌に用いることを想定して物質フローの解析を行った。この結果から、ティラピア養殖から排出される窒素の5.17%、リンの5.54%が食物連鎖1サイクルでティラピア稚魚に蓄積されることが分かった。また、ティラピアの飼育水を液肥として利用して野菜の水耕栽培を行うアクアポニックスも古くから研究がなされており、これらの複合的な食料生産技術の利用も宇宙での食料事情を豊かにすることができると考えられる。
次にティラピアの異なる重力下での遊泳行動や摂餌行動について航空機を用いた実験を行った。航空機に酸素供給のための人工肺を接続した循環型の密閉式魚類飼育観察装置を搭載して遊泳行動の撮影を試みた。その結果、可視光照射下ではほとんどの個体が光の背を向ける背光反射による正常遊泳を示した。また、近赤外光LED(発光波長: 950nm)を照射した際には体軸を中心として体側側に回転するローリングや前方腹側に回転するルーピングという以上遊泳行動を示すこともわかった。また、微小重力下においても一方向から光照射を行うことで遊泳と摂餌が可能であることも明らかとなった。同様の航空機実験によって微小有力から0.2Gを創出して行った重力感知実験では0.1G程度から姿勢の保持が可能であり、0.2G下ではほぼ全ての個体が、光照射がなくとも正常遊泳することもわかった。
これらの結果から物質循環型の養殖を行う際の物質フローの一部を明らかにすることができ、月や火星の重力に十分に適応して正常遊泳が可能であることが示唆された。
今後は長期の魚類飼育を想定し、世代交代を視野に入れた養殖技術の検討が必要である。