日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-OS 海洋科学・海洋環境

[A-OS17] 海洋物理学一般

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (8) (Ch.08)

コンビーナ:土井 威志(JAMSTEC)、コンビーナ:岡 顕(東京大学大気海洋研究所)、座長:土井 威志(JAMSTEC)、岡 顕(東京大学大気海洋研究所)

11:00 〜 13:00

[AOS17-P03] 対馬暖流のフロントジェネシス─乱流スケール現象への影響─

*伊藤 大樹1、川口 悠介2和川 拓1坂本 圭3 (1.国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産資源研究所、2.東京大学 大気海洋研究所、3.気象研究所)

キーワード:フロントジェネシス、変形流、混合、船舶集中観測、再解析データセット、対馬暖流

ラージ-メソスケールの変形流によって引き起こされる密度前線の発達はフロントジェネシスと呼ばれ、中規模渦などのメソスケール現象から、乱流などのマイクロスケール現象へのエネルギーカスケードを担うことが指摘されている。フロントジェネシスに伴い前線に沿って急速に引き伸ばされた水塊は、しばしば周囲の水塊と異なる性質をもったフィラメントを形成する。水平流のシアによって細分化されたフィラメントは、水塊特性の勾配を大きくすることで、効果的な混合を促進することが示唆されている。しかしながら、サブメソ-マイクロスケールの現象を解像するような包括的な観測は限定的であるため、観測データに基づくスケール間のエネルギー輸送過程の評価や混合過程の理解は未だ不十分である。
日本北岸を流れる対馬暖流海域表層は、対馬暖流の流路変動や中規模渦の存在によって力学エネルギーが大きく、また対馬暖流を境に南には高温・高塩、北には低温・低塩の水塊が隣接して分布している。本研究では、対馬暖流フロントに伴うサブメソスケールの変形・水塊構造を調べるとともに、サブメソスケール過程と混合過程との関係を把握することを目的とし、対馬暖流域において乱流計(VMP250)を用いた調査船による高密度観測を実施した。併せて、気象庁気象研究所の日本沿岸海洋再解析データセット(MOVE MRI.COM-JPN Dataset)を解析し、調査対象海域の変形流に伴う密度前線の発達過程を詳細に調べた。
船底ADCPで得られた水平流速と衛星海面高度により計算された地衡流は、前線付近において前線に直行する向きの収束流を示した。前線付近表層では対馬暖流系の高温・高塩の水塊が厚く分布していた。その下層には、水平スケール50 km程度の低温・低塩水のパッチがみられた。再解析値によると、調査によって変形流が捉えられた領域において、前線の密度勾配が増加しており、フロントジェネシスが起こっていたことが指摘された。変形場では、大きなエネルギー散逸率が観測される傾向があった。また、低温・低塩水のパッチをはじめとする水塊貫入パターンに伴い、水温消散率の値が大きくなっていた。実測データと再解析値を共に解析することで、対馬暖流域におけるフロントジェネシスというサブメソスケール過程とそれによって形成される水塊構造について記述し、乱流混合との関連について考察した。