日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-CG 地球生命科学複合領域・一般

[B-CG05] 地球史解読:冥王代から現代まで

2022年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)、コンビーナ:加藤 泰浩(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、コンビーナ:中村 謙太郎(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)、座長:安藤 卓人(島根大学 エスチュアリー研究センター)、小宮 剛(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻)

09:30 〜 09:45

[BCG05-03] グリーンランド北西部の中原生界堆積岩から見出された含酸素芳香族化合物:起源と地球史的意義

*池田 雅志1原 勇貴1安藤 卓人2沢田 健3 (1.北海道大学理学院自然史科学専攻、2.島根大学 エスチュアリー研究センター、3.北海道大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)


キーワード:芳香族フラン、バイオマーカー、中原生代、グリーンランド

[はじめに] 原生代において、二度の大酸化イベント(GOE,NOE)に挟まれた中期原生代(1.8 - 0.8 Ga)は、長期にわたって炭素同位体比の変動が安定していることや氷河性堆積物がほとんど見られないことから「不毛な10億年」とも呼ばれてきた(Young, 2013)。しかし、生命史においては真核生物の共通祖先の出現と急激な放散が起こったことが分子系統解析の結果から指摘されており(Parfrey et al., 2011; Eme et al., 2014)、また地球化学的な証拠から、この時期には高等植物に先んじて陸上に微生物が進出し、陸上風化を促進させた可能性が示されている(Kump, 2014など)。本研究ではグリーンランド北西部に分布する中原生界堆積岩から検出された芳香族フランについてその起源と生物指標分子(バイオマーカー)としての可能性を議論する。
[試料と方法] 本研究では、グリーンランド北西部に分布するBaffin Bay Group, Qaanaaq Formationの頁岩に含まれる有機物をGC-MSを用いて分析した。Qaanaaq Formationは砂層優勢の砂泥互層で構成され、先行研究から中原生代後期に沖積平野から沿岸域にかけて堆積したとされている(Samuelsson et al., 1999; Dawes, 2006)。
[結果と考察] 各層準からは分布に変動はあるものの、含酸素芳香族化合物である複数の芳香族フランが検出された。特にジベンゾフラン類についてはこれまでも複数の起源が議論されており、高等植物のリグニンや陸上土壌の多糖類を起源とする説(Sephton et al., 2005; Fenton et al., 2007; Wang & Visscher, 2007)や、地衣類の二次代謝産物起源とする説(Radke, 2000; Watson et al., 2005; Sawada et al., 2012)、また、Fullana & Sidhu (2005)では触媒を用いた燃焼実験においてフルオレンやビフェニルからジベンゾフランが生成されることを報告しており、自然界においても前述の地衣類以外にも高等植物の抗菌成分(Kokubun et al., 1995; Dixon, 2001)としてジベンゾフラン類が報告されている。本試料においては、これらの説のうち高等植物の起源を棄却できること、また渡邊(2000)では堆積物中での熟成を模した加熱実験からセルロースやリグニン、糖類からジベンゾフランは生成されたものの、アルキル基を持つジベンゾフラン類は生成されなかったことが報告されていることから、多糖類起源の可能性も低いと考えている。また、層準によりアルキルジベンゾフランの異性体の分布が変動することから、芳香族フラン構造をもともと持つ化合物、ひいては特定の地衣類などの起源生物に由来する可能性がある。ただし、地衣類の分子時計などの研究からは最初の出現は後期古生代(Nelsen et al., 2019など)とされていて、本研究の提案はその議論よりも相当古く遡ることになり、検討が必要である。