日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-GM 地下圏微生物学

[B-GM02] 岩石生命相互作用とその応用

2022年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、コンビーナ:須田 好(産業技術総合研究所)、白石 史人(広島大学 大学院先進理工系科学研究科 地球惑星システム学プログラム)、コンビーナ:福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、座長:鈴木 庸平(東京大学大学院理学系研究科)、須田 好(産業技術総合研究所)

14:50 〜 15:05

[BGM02-05] 陸域地下深部の透水性砂岩層における微生物群集の解明

*吉田 晶1幸塚 麻里子1鈴木 庸平1 (1.東京大学)

キーワード:地下生命圏、無菌無酸素掘削、微生物群集組成解析

地下岩石内では、透水性が高い砂岩層に生命が存在している可能性が高い。しかし、通常の掘削方法では掘削流体に含まれる微生物や酸素の混入により、微生物群集を明らかにすることは困難だった。その背景を踏まえ、第 3 紀海成堆積岩の荒川層群上部を対象に、無菌・無酸素処理した掘削流体を用いた掘削が、栃木県那須烏山市で行われた。掘削により352 mのコア試料を取得し、そのうち、300-310 mに厚い凝灰岩層の形成が確認された。そこで、本研究では、無菌無酸素掘削により取得された透水性の高い層における微生物生態系を明らかにすることを目的とした。無菌処理した掘削流体は、顕微鏡観察の結果、微生物の混入が検出限界値未満(<102 cells/L)であったことから、使用する掘削流体による汚染は限りなく低いと考えられた。一方で、掘削中の掘削孔内での微生物混入は考えられるため、掘削コア取得後の掘削孔底から掘削流体試料を採取し顕微鏡観察を行った。その結果、深度250 mのシルト岩や深度303 mの凝灰岩質砂岩層は微生物の細胞濃度は検出限界値未満(<2.2×102 cells/L)であった。このため、これらの深度の岩石コアは掘削による微生物の汚染が低いと示唆された。コア試料の原核生物の16S rRNA遺伝子をターゲットにした定量PCRの結果、深度250 mでは検出限界値未満であったが、深度300 mと深度303 mのコア試料では検出された(300 m: 5.4×105 copies/ wet, 303 m: 4.8×105 copies/ wet)。深度300 mと深度303 mの16S rRNA遺伝子増幅による微生物群集組成解析の結果、どちらの深度でもβ-proteobacterial (300 m: 96%, 303 m: 90%)の優占が確認され、中でも、AcidovoraxAquabacteriumに属する割合が高かった。AcidovoraxAquabacteriumに属する細菌は硝酸還元をするものが多く、これらの結果は、凝灰岩層の間隙水から硝酸や亜硝酸が検出されたSuzuki et al., 2009で示された結果と整合的である。303 mのコア試料薄片を用いたSYBR GreenⅠによる顕微鏡観察や、鉱物に対するCatalyzed reporter deposition fluorescence in situ hybridization (CARD-FISH)の結果、鉱物粒子に付着したβ-Proteobacteria細菌の存在が明らかとなった。以上の結果から、今回取得された微生物は、掘削による汚染ではなく、掘削コア試料由来の微生物であると結論付けた。加えて、今回発見された透水性の高い凝灰岩質砂岩層には鉱物に付着したβ-Proteobacteria主体の硝酸に依存した微生物生態系が存在していることが明らかとなった。

参考文献
Suzuki, Y., Suko, T., Yoshioka, H., Takahashi, M., Nanba, K., Tsunogai, U., Takeno, N. and Ito, K. (2009) Biogeochemical profiles in deep sedimentary rocks in an inland fore-arc basin, Central Japan. Chem Geol 259: 107-119.

本研究は原子力安全・保安院「平成22年度地層処分に係る地質評価手法等の整備」として公表許可申請済みのデータが含まれる。