日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 B (地球生命科学) » B-PT 古生物学・古生態学

[B-PT03] 生物鉱化作用(バイオミネラリゼーション)と古環境プロキシー

2022年6月2日(木) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (31) (Ch.31)

コンビーナ:豊福 高志(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、コンビーナ:北里 洋(国立大学法人東京海洋大学)、Bijma Jelle(アルフレッドウェゲナー極域海洋研究所)、コンビーナ:廣瀬 孝太郎(早稲田大学  大学院創造理工学研究科 地球・環境資源理工学専攻)、座長:豊福 高志(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、廣瀬 孝太郎(早稲田大学  大学院創造理工学研究科 地球・環境資源理工学専攻)、北里 洋(国立大学法人東京海洋大学)、Bijma Jelle(アルフレッドウェゲナー極域海洋研究所)

11:00 〜 13:00

[BPT03-P03] 磁器質殻有孔虫Sorites sp.の石灰化中における殻の超微細構造の観察

*長井 裕季子1,2、椿 玲未3藤田 和彦4豊福 高志2,5 (1.独立行政法人 国立科学博物館、2.国立研究開発法人 海洋研究開発機構、3.東京大学総合研究博物館、4.琉球大学、5.東京海洋大学)

キーワード:バイオミネラリゼーション、有孔虫、FIB-SEM、微細構造

有孔虫は、海洋中に存在する石灰質の殻を持つ単細胞生物である。有孔虫の殻の元素組成は、古海洋学的な再構成に大きく貢献している。しかし、石灰化に伴う元素取り込みの生物学的プロセスについての知見は限定的である。特に、仮足や有機膜状構造の役割についての全貌は不明な点が多い。これまで我々は2種類ある石灰質有孔虫の1つであるガラス質有孔虫の殻形成プロセス解明の為に、殻形成途上の試料の微細構造観察を行ってきた。微細構造観察から殻形成部位は膜状構造で外界から隔絶されていることや炭酸カルシウムの沈着様式を記載してきた。一方で陶器質有孔虫と呼ばれる乳白色の殻の形成プロセスについては、1986年にHemleben et al.において、細胞内の小胞の中で炭酸カルシウムの針状結晶が形成されていることが示されて以来、あまり研究が進んでいなかった。
そこで本研究では陶器質有孔虫であるSorites sp.の殻形成プロセスを明らかにする為に、殻を形成している途上の試料を用いて、石灰化部位を観察した。
 集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)を用いて形成途上の殻に対して微細加工を行い、平滑な横断面を作成し、観察した。石灰化部位は隙間が多く空いていて綿あめ状の構造で形成されていた。石灰化部位を高倍率(8万倍、16万倍)で観察したところ、わたあめ状の構造は太さが5-30nm程度で不均一であった。また枝分かれしている構造であることが初めてわかった。ペナルティメイトチャンバーの殻の構造を観察したところ、結晶が詰まっており、形成中の殻よりも密な構造となっていた。また、結晶は太さが20nm程度で均一な太さであった。形成中の殻とは違い枝分かれしているような構造はいまのところ見つけられていない。さらに断面に対してEDS分析を行ったところ、Caの含有率が形成中の殻の方が低かった。Mg、Sの含有率は形成中の殻の方が多く検出された。
今回の結果からはSorites spの石灰化は Hemleben et al. (1986)で提唱されているような細胞内のベシクルで針状結晶を形成して殻を作るという様式ではないことが示唆された。本観察によって、有孔虫類のバイオミネラリゼーションの知られていなかった新たな様式が発見された可能性がある。この知見は元素の分配と同位体分別を理解する上で鍵となるかもしれない。