日本地球惑星科学連合2022年大会

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[J] ポスター発表

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[G-05] ジオパークで学ぶ日本列島の特徴と地球・自然・人の相互作用(ポスター発表)

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (26) (Ch.26)

コンビーナ:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、コンビーナ:佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、郡山 鈴夏(糸魚川市役所)、コンビーナ:小原 北士(Mine秋吉台ジオパーク推進協議会)、座長:松原 典孝(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)、佐野 恭平(兵庫県立大学大学院 地域資源マネジメント研究科)

11:00 〜 13:00

[G05-P10] 防災教育チャレンジプランを活用した糸魚川ユネスコ世界ジオパークのボトムアップの防災活動

*小河原 孝彦1茨木 洋介1香取 拓馬1郡山 鈴夏1竹之内 耕1、小林 猛生2、ブラウン セオドア2 (1.フォッサマグナミュージアム、2.糸魚川ジオパーク協議会)

キーワード:糸魚川ユネスコ世界ジオパーク、防災教育チャレンジプラン、新潟焼山

糸魚川ユネスコ世界ジオパークでは,日本列島の大地を知る活動として地域学習や防災学習を推進してきた.学校や地域住民向けの出前講座では,変動する大地である日本列島の形成史とその大地がもたらした恵みや災害について知り,大地から受ける恩恵と災いは切離せない「禍福はあざなえる縄のごとし」であることを伝えている.地域住民が,大地がもたらす恩恵を享受していることを知り,大地が引き起こす災害を許容し危機に対応する能力を向上させることで,レジリエンスを高めていくことを目標としている.

2021年度,糸魚川ジオパーク協議会は,内閣府が主催する防災教育チャレンジプランの実践団体に採択され活動を進めてきた.テーマは「活火山の新潟焼山を知る!楽しむ!備える!プロジェクト ~ボトムアップの防災学習実践~」であり,市内学校や地域住民,大学研究者,他地域のジオパーク関係者,気象台,消防本部,山岳団体など多くの関係者とボトムアップの防災活動を実施し,特別賞を受賞したことから内容を報告する.

防災学習の対象である新潟焼山は,日本国内に50山ある気象庁の常時観測火山の一つである.約3000年前の新潟焼山誕生から100年~250年間隔でマグマ噴火を起こしている.防災教育チャレンジプランでは,このような活火山である新潟焼山を知り,楽しみ,備えることを目標としている.

学校での焼山を知る・楽しむ・備える活動として,白嶺防災フォーラムを開催するなど防災教育に力を入れている県立糸魚川白嶺高校での新潟焼山防災学習を実践した.コロナ禍もあり,10月7日からの開始となったが,初回は生徒を対象に新潟焼山の何を知りたいかワークショップ形式で意見出しを行い,主催者側の押しつけではない自発的な学びのきっかけを作る努力をした.

生徒の興味・関心を念頭に,高校での講義を実施した.ジオパークのネットワークを生かし,新潟焼山を研究している大学教員や類似した活火山を有した島原半島ジオパーク,洞爺湖有珠山ジオパークの専門員にも講師をお願いした.学習の成果は,2月4日に開催された「高校生国際交流会(高知県立室戸高校主催)」で発表した.生徒の興味と学年バランスを考慮し,「知る」・「楽しむ」・「備える」の3つのグループを編成し,それぞれのテーマごとに講義の内容を整理した.発表当日は,5名の生徒が代表で発表し,室戸高校や伊達緑丘高校など他校の学生と、高校生だからできる防災への取組について考える機会となった.また,糸魚川に在住する紙芝居作家の協力を得て,幼児が楽しく新潟焼山について学習できる紙芝居の作成を糸魚川白嶺高校の美術部生徒と実施した.

地域での焼山を知る・楽しむ活動として,活動内容を議論するため新潟焼山の山麓に位置する湯川内集落の方との意見交換を9月19日に実施した.今までの防災活動では,教える側と聞く側に分かれることが主であったが,地域の要望を聞きボトムアップの活動へとつなげるために,地域の要望を聞く意見交換会をまず実施している.

11月3日に地元の意見を参考に開催した新潟焼山を知るジオツアーは,岩石や露頭の説明ではなく,火山の災害と恵みを受ける地域に生きる人に着目して実施した.当日は悪天候で湧水の見学など変更を余儀なくされた地点もあったが,①縄文時代の遺跡から分かる過去の人の暮らし,②焼山の豊富な湧水の恵み,③地域の方と一緒に作る笹寿司と山菜料理,④温泉の説明と入浴,⑤地下水となった湧水でのワサビやチョウザメの飼育,などを見学することができ,新潟焼山と共に生きる人々の暮らしの一端を体験することができた.

新潟焼山の火山活動に備える取組として,山麓の早川谷を対象に,集落ごとのきめ細かい防災学習を実施した.意見交換会の要望を参考に内容を決定し,新潟地方気象台や高校生とのオンライン講義を担当した講師にも出演を依頼した.現地では,動画の他に,糸魚川市消防本部の防災部局と合同で,新潟焼山の警戒レベルの改訂や土砂災害の予兆についても説明を実施した.その後,ハザードマップと集落の地図を印刷した物を活用し,実際に噴火が発生した際の避難計画について,参加者一人一人と対話をしながら検討を行った,この際に出た意見は,市の防災部局に伝達し,今後の避難計画に活かせるように注意した.来年度以降は,児童生徒の参加の呼びかけや焼山の現地見学とあわせて継続して実施することを考えている.

このように,防災教育チャレンジプランを活用し,新潟焼山を対象にボトムアップの防災活動を推進することができた.このような,地域住民や生徒の意見を聞きながら活動を推進することは大きな労力や時間を必要とする.しかし,レジリエンスの本質は,行政や研究者からの押しつけで機能するものではなく,地域住民の生活や人間関係から育まれ醸成していくものであることから,今後もボトムアップの防災活動を推進していきたい.