日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG24] 原子力と地球惑星科学

2022年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:竹内 真司(日本大学文理学部地球科学科)、コンビーナ:長谷川 琢磨(一般財団法人 電力中央研究所 )、笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、座長:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、久保 大樹(京都大学大学院工学研究科)

11:30 〜 11:45

[HCG24-10] 福島の森林流域における放射性セシウム含有微粒子の分布

*脇 嘉理1、辰野 宇大 2、二瓶 直登3、角間 海七渡4、長澤 和佳5、村上 正志5大手 信人4 (1.京都大学農学部、2.福島大学環境放射能研究所、3.福島大学食農学類、4.京都大学大学院情報学研究科、5.千葉大学理学研究院)


キーワード:福島第一原子力発電所、放射性セシウム、放射性粒子、物質輸送、流域

2011年3月に発生した福島第一原子力発電所(以下,FDNPPと表す)の事故により,放射性セシウムをはじめとする多量の放射性物質が大気中へと放出され,森林を含む陸域に沈着した.森林は,居住地や農地と比べて行政の施策における除染の優先度は低いが,森林から河川を通じて放射性物質が生活圏へと移行する可能性があり,その移行プロセスを監視する必要がある.環境中に放出された放射性セシウムのうち,SiO2ガラスを主成分とする微粒子に取り込まれた状態のものはCsMP(cesium-rich micro-particle)とよばれる.CsMPは他の存在形態の放射性セシウムと比べて単位重量当たりの放射能が高く,人々がCsMPを呼吸器中に吸引した場合,内部被ばくを引き起こすなどの潜在的な健康上のリスクが懸念される.既往の研究では,CsMPの化学的特性については調べられているが,環境中のCsMPの空間分布や動態についての調査例は少ない.
本研究では,森林生態系およびその下流域に存在するCsMPを定量的に評価し,その分布・移行特性を明らかにすることを目的として,次の3項目を調査した.(1)森林斜面表層のCsMP分布に対する地形的・地理的な影響.(2)森林土壌中でのCsMPの鉛直分布の状況.(3)CsMPの河川を通じた移行の状況.
試料は,FDNPPから北西方向に約55km離れた福島県伊達市内の上小国川(およびその支流)とその流域,北西方向に約8km離れた福島県浪江町内の高瀬川とその流域で採取した.各河川上流の森林斜面(10×10m区画)で,表層0-5cmの土壌を採取した.加えて,深度0-30cmの土壌も採取した.また,各河川上流・中流・下流の地点で平水時の河川水を約10L採取した.試料採取は,上小国川流域では2021年8月12,13日,高瀬川流域では2021年9月5日,6日に行った.土壌試料は乾燥させた後に2mmメッシュのふるいにかけて礫を除き,河川水試料からは懸濁物を回収した.土壌・懸濁物試料に対してオートラジオグラフィ解析を行って試料中のCsMPを検出し,その放射能を定量化した.なお,本研究では0.01Bq以上の放射能を持つ粒子をCsMPだと判定した.また,γ線スペクトル解析によって試料全体の放射性セシウム由来の放射能を測定し,測定結果をCsMPの定量的評価に使用した.
表層土壌の解析の結果,高瀬川上流では,上小国川上流に比べて多くのCsMPが現存することが分かった.しかし,放射性セシウム由来の全放射能に対するCsMP由来の放射能の寄与率(RF値)は全体として1%程度であり,地理的な差が見られなかった.CsMPの分布を調査した既往の研究との比較から,CsMPが他の放射性粒子よりも相対的に多く流亡していることが示唆された.
CsMPと全放射性セシウムの鉛直分布には顕著なずれがみられず,CsMPと他の形態の放射性セシウムの鉛直方向の移動性に大きな差がないことが示唆された.高瀬川上流と上小国川上流との比較では,土壌の孔隙構造などの物理性の違いによると考えられる鉛直分布の違いが,CsMPとそれ以外の形態での放射性セシウムの両方でみられた.
高瀬川中流の河川水懸濁物からCsMPが検出されたことから,上流に多くのCsMPが存在する高瀬川流域では,平水時でも河川を通じてCsMPが移行していることが示唆された.しかし,他の調査地点の河川水懸濁物からはCsMPは検出されなかった.