日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG26] 気候変動への適応とその社会実装

2022年6月1日(水) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (18) (Ch.18)

コンビーナ:山野 博哉(国立環境研究所)、コンビーナ:石川 洋一(海洋研究開発機構)、大楽 浩司(筑波大学)、コンビーナ:田村 誠(茨城大学地球・地域環境共創機構)、座長:山野 博哉(国立環境研究所)、石川 洋一(海洋研究開発機構)、大楽 浩司(筑波大学)、田村 誠(茨城大学地球・地域環境共創機構)

11:00 〜 13:00

[HCG26-P06] モンゴルの草原域における永久凍土の融解による影響および適応策

*王 勤学1、岡寺 智大1、中山 忠暢1 (1.国立研究開発法人 国立環境研究所)

キーワード:永久凍土の融解、モンゴルの草原域、適応策

モンゴルの国土の70%以上は草原で覆われている。草原は、遊牧民の生活を支えている最も重要な資源である。モンゴル北部の広い地域では、年平均気温が0℃以下であるため、草原の下に永久凍土が存在している。モンゴル気象観測史上最も長い6地点(ウランバートル、バルーンハラ、チョイル、サインシャンド、ザミンウードとマンダルゴビ)のデータ解析によると、1945-2019年の75年間に年平均気温は約2.8℃も上昇し、その上昇幅は世界平均より遥かに大きいことが分かった。温暖化に伴って永久凍土が融解され、結果的に草原地域の水循環の変化をもたらし、最終的に草原生態系の生産性や牧養力などにも影響を与えると考えられる。
 私たちは、温暖化が永久凍土の融解に及ぼす影響を検出するために、2009年からモンゴル北部の森林、草原、湿地など様々な陸域生態系において、地中の温度分布の観測を行った。これらの観測データから永久凍土の温度や活動層の厚さなどの指標を算出し、永久凍土の融解スピードや変動幅を解析した。その結果、草原域の永久凍土の退化が他の地域より顕著であることが分かった。また、SHAW(Simultaneous Heat and Water)モデル(Flerchinger and Saxton, 1989)を用いて数値実験を行った結果、気温上昇や降水量の減少による干ばつは、永久凍土の融解に拍車をかけ、さらに、干ばつと過放牧が温暖化と同時に起これば、永久凍土の融解をさらに加速させる可能性も示唆された。
 データ解析や数値実験によると、永久凍土が融解すれば、溶けた水が蒸発したり、土壌に浸み込んだり、川や湖に流れ込んだりなど水循環の変化をもたらすことが分かった。また、永久凍土の活動層の深さが植生にとって重要で、活動層は1~2mの深さであれば、雨水や凍土から溶けた水分が根層にあるため、植生は安定して水分を得ることができる。しかし、活動層は2~2.5mを超えると、凍土から溶けた水分が根層に届かないため、植生は変動が激しい雨水だけに頼らねばならず、これまで草原だった場所でも今後は草木が生えなくなる可能性もある。つまり、温暖化による永久凍土の融解は、土壌水分や地下水など水資源の変化をもたらし、結果的に草原生態系の生産性や牧養力に影響を与えることが分かった。
 健全な草原生態系を維持するため、まず、過剰な開発と利用によるストレスの低減や、気候変動影響を受けやすい地域の積極的な自然回復などが重要である。また、家畜頭数の適正管理、草原利用率や牧草収穫率の向上、飼料や水資源の地域外からの導入、井戸掘りによる地下水の有効利用等様々な適応策が考えられる。ただし、これらの施策を実行する場合の得失や実施可能性の考察、および利益関係者の間の合意形成が必須となる。今後、これまで開発してきた評価モデルを用いて、これらの適応策の効果を評価していきたい。