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[HCG26-P07] 国立公園における沿岸生態系の利用管理の現状と将来予測に基づく適応策の検討
キーワード:気候変動適応、温暖化、国立公園、生物多様性、管理、沿岸生態系
生物多様性は人間生活にとって重要な役割を果たすが、地球規模・地域規模のストレスを受け生態系の劣化が進行している場所も多くみられる。そのため、管理の必要性が広く認識されている。日本各地に存在する国立公園では、気温や水温といった環境の違いを反映し生物相が大きく異なるとともに、観光資源として活用される生物群集や保全・管理の対象種にも違いがあると考えられる。国立公園では利用と管理を両立することが重要であり、様々な保全策がこれまでに実施されているが、気候変動の影響を意識した管理が必ずしも実施されているとは限らない。本研究では、水中景観を構成する造礁サンゴや大型海藻、海草に着目し、国立公園における資源としての認識を整理するとともに、公園内でどのような動植物の採捕規制、保全活動、モニタリングが実施されているかを明らかにした上で、気候変動への脆弱性に対して講ずるべき適応策について議論することを目的とした。国立公園の特長を記載したホームページでは造礁サンゴや大型海藻、海草が挙げられることが多く、公園の資源として少なからず認識されていることが分かる。各国立公園の海域公園地区における採捕規制種の内訳をみると、大型海藻や海草と比較して造礁サンゴの指定数が圧倒的に多く、特に低緯度に位置する国立公園ほどその傾向が顕著であった。また、環境省の事業により食害生物駆除といった保全活動が公園内で実施されていることが多かった。一方、大型海藻や海草が採捕規制種として記載されている国立公園は複数あるものの、それらを対象とした保全活動やモニタリングの規模は小さく、サンゴとは対照的であった。また、利用・管理の対象となっている生物の分布域と最低・最高水温の情報、文献値から各生物の適水温帯の指標を構築した。その後、将来の海面水温の予測結果を用いて分布域の変化を予測した。これらの結果をもとに、各国立公園の特徴をまとめ、水温上昇下での今後の課題を示した。サンゴは水温上昇に対して非常に脆弱であると同時に、分布域を北方に拡大しつつあることが特徴であるが、今後規制種の見直しや保全活動の強化が多くの公園で必要になると考えられる。また、現在のサンゴの分布や利用・保全管理の間にギャップが存在する公園もあり、そのギャップを解消するような事業の実施も重要である。一方、大型海藻や海草に関しては、その価値を適切に把握し利用を促進するとともに、継続的にモニタリングや保全活動を実施できるような体制を構築することが課題である。海洋保護区の面積の拡大が検討されている中で(e.g., 30by30)、気候変動下の管理では、保全すべき生物・生態系の利用・管理の状況を適切に把握するとともに、将来的な変化を踏まえることが必要である。