日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG28] 農業残渣焼却のもたらす大気汚染と健康影響および解決への道筋

2022年5月31日(火) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (16) (Ch.16)

コンビーナ:林田 佐智子(総合地球環境学研究所)、コンビーナ:竹内 渉(東京大学生産技術研究所)、Patra Prabir(Research Institute for Global Change, JAMSTEC)、コンビーナ:山地 一代(神戸大学)、座長:Patra Prabir(Research Institute for Global Change, JAMSTEC)、Mizuo Kajino(Meteorological Research Institute)

11:00 〜 13:00

[HCG28-P02] 北インドにおける衛星から観測された火災情報

*黒木 由貴1林田 佐智子1 (1.奈良女子大学)

キーワード:農業残渣焼却、大気汚染、火災検知、衛星観測

研究の背景と目的
バイオマス燃焼によって放出される物質により、世界中で大気汚染や地球温暖化、人体への深刻な健康被害が引き起こされる。農業残渣焼却はバイオマス燃焼のうち年間量の約4分の1を占めると推定されている。インドのパンジャーブ州とハリヤナ州(以降インド・パンジャーブ地方と記す)はインド国内において農業生産性が高い地域であり、コメの収穫後である9月から11月にかけてコメの残渣焼却が行われている。
バイオマス燃焼は、赤外波長帯を使用した衛星観測によって検知が行われてきた。火災情報を取得している主な衛星センサにはEOS-Terra/Aquaに搭載されたMODerate resolution Imaging Spectroradiometer (MODIS)、Suomi National Polar-orbiting Partnership(Suomi NPP)とNOAA-20に搭載されたVisible Infrared Imaging Radiometer Suite(VIIRS)がある。これらの観測結果(active fire products)はWebサイトで公開されている(https://firms.modaps.eosdis.nasa.gov)。農業残渣焼却の検出は、火災が小規模で焼却時間が短く、また煙や雲で隠れてしまうため過小評価であると考えられている。しかし、衛星観測は広範囲で長期間の観測記録を取得することができるという利点もある。
本研究では、MODISとVIIRSによる観測データを使用してインド・パンジャーブ地方の農業残渣焼却の長期変化を分析すると共に、焼却時刻に関する情報を得ることを目的とする。衛星による火災検知は観測時刻が制限されるため、焼却時刻によって、検知されないことがある。一方、大気汚染のシミュレーションを行うためには、焼却時刻の情報が不可欠である。
解析したデータ
MODISは、1999年12月に打ち上げられたTerraおよび2002年に打ち上げられたAquaに搭載されており、火災情報を空間分解能1kmで、昼夜2回ずつ(赤道通過時刻:Terra 10:30/22:30, Aqua 13:30/1:30)得ることができる。VIIRS は2011年10月に打ち上げられたSuomi NPP、2017年11月に打ち上げられたNOAA-20に搭載されており、空間分解能は375mで、昼夜2回(同Suomi NPP 13:30/1:30, NOAA-20 12:40/0:40)の観測結果を得ることができる。
解析方法と初期結果
本研究では、稲藁焼きの行われる9月から11月を対象として、MODISとVIIRSのactive fire productを使用してパンジャーブ地方に位置する火災情報を取り出し、1日の火災検知数(FDC)と火災放射力(FRP)を積算して長期傾向を調べた。その結果、2020年にFDCが急激に増加していた。この原因としてCOVID-19の影響が考えられる。
さらにMODISのTerra/Aqua FRP比(10:30と13:30の比)を用いて焼却時刻を推定した。T/A比が小さい場合は火災活動が短時間でエネルギーが急激に増加することを表す(Vermote et al., J. Geophys. Res. Atmos., 2009)。日中早い時間に燃え始め、午後には鎮火するスラッシュバーニングのような人為起源の火災が典型的である。T/A比が1.0に近い場合は、森林火災のように同程度の強度で燃え続けていることを表す。パンジャーブ州のT/A 比は、10月は0.20、11月は0.10であり、午後の方がよく燃えていると報告されている(Vadrevu et al., Environ. Pollut., 2011)。VIIRSでは、空間分解能が向上し、2つの衛星の観測時刻が12:40と13:30と近接していることから、火災時刻について、より詳細な情報が得られることが期待できる。本研究では、Vadrevu et al.(2011)と同様の解析をVIIRSで行う。初期解析として、2020年と2021年のパンジャーブ地方において、NOAA-20とSuomi NPPの双方が観測している同じ火災と見なされる事例を収集し、FRP ratioを算出したところ、大きなばらつきが見られた。
謝辞
本研究は人間文化研究機構(NIHU)・総合地球環境学研究所(RIHN)Project No.14200133 Aakashの支援を受けました。