日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG29] 圏外環境における閉鎖生態系と生物システムおよびその応用

2022年5月22日(日) 09:00 〜 10:30 201A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:篠原 正典(帝京科学大学)、コンビーナ:加藤 浩(三重大学 地域イノベーション推進機構 先端科学研究支援センター 植物機能ゲノミクス部門)、木村 駿太(宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 / 宇宙探査イノベーションハブ(併任))、コンビーナ:オン 碧(筑波大学)、座長:加藤 浩(三重大学 地域イノベーション推進機構 先端科学研究支援センター 植物機能ゲノミクス部門)、オン 碧(筑波大学)、横谷 香織(筑波大学生命環境系)

09:20 〜 09:45

[HCG29-02] 長期閉鎖居住へ向けたハード面での現状と課題

★招待講演

*桜井 誠人1 (1.国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構)

キーワード:生命維持技術、閉鎖環境、宇宙

国際宇宙ステーション(ISS)は高度400km上空を飛行している。そこには6名程度の宇宙飛行士が滞在し、実験や研究などを行っている。ISS内部は地上と同じ1気圧に保たれている。ISSの壁は頑丈なアルミニウム合金で作られており、ISS外部の真空の宇宙空間との1気圧以上の気圧差にも十分耐えられるように設計されている。空気や水は持参する必要がありそれを清浄化し、温度・湿度を維持する環境制御・生命維持システム: ECLSS1) (Environmental Control Life Support System)が必要である。太陽光発電によりエネルギーを自給し、熱を除去し、放射線からコンピュータを防御し、地球と通信する場合はアンテナを通信できる環境にする必要がある。
空気は呼吸をするために必要であり気圧があるために体内のガスと液体の散逸を防いでいる。人間の肺は酸素分圧0.2気圧の空気を呼吸するようにできている。宇宙船の構造を軽量化するために全圧を下げると酸素分圧を上げる必要がある。初期の有人宇宙ミッションにおいて、NASAは宇宙船内を呼吸に必要である純粋な酸素で満たした。しかしアポロ1号の訓練中に、100%の酸素の環境で炎は瞬くうちに宇宙船内に燃え広がり瞬時にして3人の宇宙飛行士の命が絶たれた。この悲劇ののち、NASAは酸素に炎の広がりを妨げる窒素を混合するようになった。
宇宙ステーションでは地上と同じ比率の窒素と酸素で満たされている。宇宙船の結合時や船外活動時のハッチの開閉や実験運用で行う真空排気、除去した二酸化炭素の船外への廃棄などにより少しずつ空気が逃げて行く。船外へ逃げる空気の量は通常活動時で1日に約3.6グラムと言われている。ステーションの窒素と酸素は地上から運び込む。なるべく小さなタンクに充填するため、これらは深冷され液体にする。液体のガスは加熱されモジュールに満たされる。酸素の供給、二酸化炭素の除去、二酸化炭素からの酸素の製造、除湿装置、除湿装置、熱の除去、火災対策などのハードウェアが空気だけでも必要である。
 宇宙探査活動が有人・無人に関わらず地球低軌道を超え,飛躍的にその範囲を拡大することが予想されている.中でも月面に関しては,有人での本格的探査に留まらず,拠点形成などのインフラ整備を踏まえた産業活動の開始も視野に入れるなどその項目は多岐にわたる.月面での長期滞在・資源利用・産業活動を支える上で必須の人類の定住地,「有人拠点の建設」について検討されている.
 「輸送系」「ロボット」「建設」「エネルギー」「月資源のその場利用 (ISRU)」「生命維持技術」などは拠点建設の初期から人間の月での生存を支える上で重要であるだけでなく,輸送やエネルギー問題とも深くかかわることから,長期的視野で且つ系統だった課題解決と技術の向上が必要といえる.
宇宙に向けた人類の生存圏拡大が,現在の科学技術力をもってしても非常にチャレンジングであるとともに,その実現に向けた研究開発の「伸びしろ」の大きさ,従来の「航空宇宙工学」ではカバーしきれない,まさに総合科学としての在り方を示すものと言える.
本発表では、長期閉鎖居住へ向けたハード面での現状と課題を紹介する。