日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS07] 地すべりおよび関連現象

2022年6月1日(水) 16:00 〜 18:00 オンラインポスターZoom会場 (16) (Ch.16)

コンビーナ:千木良 雅弘(公益財団法人 深田地質研究所)、コンビーナ:王 功輝(京都大学防災研究所)、今泉 文寿(静岡大学農学部)、座長:鄒 青穎(弘前大学農学生命科学部)、松澤 真(公益財団法人 深田地質研究所)

16:00 〜 18:00

[HDS07-P03] 八ケ岳・大月川流域における大月川岩屑なだれ堆積物の給源と地形発達の地形学的・記載岩石学的検討

*小柴 理人1小荒井 衛1 (1.茨城大学大学院理工学研究科)

キーワード:八ヶ岳火山、大月川岩屑なだれ、流れ山、地形解析、記載岩石学、長軸方向

八ヶ岳火山・東天狗岳東麓の大月川流域には、多数の流れ山地形を伴う岩屑なだれ堆積物が存在する。これは北端をニュウ、南端を硫黄岳までの連続する巨大な崩壊地形を推定給源とし、大月川岩屑なだれと呼ばれる(河内、1983a)。大月川岩屑なだれ堆積物は、推定給源から約10㎞流走し、松原湖周辺に流れ山群を形成し、千曲川を閉塞して天然ダムを生じたとされる(井上ほか、2010)。しかし、大月川岩屑なだれ堆積物の分類や流れ山の形態について検討の余地が残されている。大月川岩屑なだれの誘因は、歴史資料と堆積物中の年代試料からAD887仁和五畿七道地震が有力視されてきた(石橋、1999;井上ほか、2010)。しかし、山田ほか(2021)によって、既存研究で得られた松原湖付近の材化石の年代はBC350~AD1460に分散するとの指摘がある。また、苅谷・栗本(2021)では、材化石のC14年代測定により、大月川岩屑なだれ堆積物と年代の異なる崩壊堆積物をみどり池、稲子湯、本沢温泉付近で確認している。地形的な視点からAD887の崩壊は、堆積物から推定される崩壊量が崩壊規模よりも少ないこと(井上ほか、2010)、一度の崩壊ではなく少なくとも4回のマスムーブメントの発生が示唆されている(町田・田村、2010)。本研究では、流れ山地形を中心とした大月川岩屑なだれ堆積物と給源付近の滑落崖に関して地形判読と記載岩石学的検討を併せることで、大月川岩屑なだれの詳細な給源を明らかにするとともに大月川流域の地形発達史を考察した。
 松原湖周辺において、54個の流れ山を確認するとともに、流れ山で仕切られた比較的平坦な箇所が3つ存在する。この平坦面は流れ山をはさんで標高が異なっており、3つのローブ状地形と分類することができる。さらに、大月川上流には複数のローブ状地形が存在する。
 流れ山について形状解析を行うと、岩屑なだれの流下方向に平行な流れ山が多く、扁平であるほどその傾向が顕著に見られた。また、流路の中央には流下方向に直交する流れ山が集まっており、停止する際に圧縮応力を受けた可能性がある。
松原湖周辺に分布する流れ山のうち、地表面に露出する岩石が認められた28個の流れ山について岩石試料を採取した。流れ山の多くは流理が発達し、赤色酸化した両輝石角閃石デイサイトの巨礫で構成されている。これは、稲子岳を構成する稲子岳溶岩と特徴が一致する。天狗岳の直下の滑落崖に露出する天狗岳溶岩は、角閃石両輝石安山岩である。しかし、流れ山において角閃石両輝石安山岩が殆ど存在しない。
 以上の事実から、流れ山等の大月川岩屑なだれ堆積物を形成した崩壊は稲子岳を発生源とすることが考えられる。そして、給源付近の滑落崖を構成する安山岩類が流れ山から見つからないことから、主稜部の巨大な滑落崖を形成した崩壊は、大月川岩屑なだれ堆積物を形成した崩壊よりも古い崩壊であることが示唆される。しかし、現存する滑落崖の大部分を占める天狗岳溶岩を給源とする崩壊堆積物が見つかっていない。複数の山体崩壊が発生したと考えられる大月川流域における堆積物の被覆関係について、さらなる地質調査が必要である。