日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS09] 人間環境と災害リスク

2022年5月22日(日) 10:45 〜 12:15 203 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:佐藤 浩(日本大学文理学部)、コンビーナ:中埜 貴元(国土交通省国土地理院)、座長:佐藤 浩(日本大学文理学部)

11:15 〜 11:30

[HDS09-09] 武庫川下流域の神社に残る自然災害の時空間記録

*黒木 貴一1 (1.関西大学文学部)

キーワード:神社、奉納物、武庫川、1995年兵庫県南部地震

神社は1000年以上も継続している日本文化としての聖空間である。本研究は,神社奉納物に,GISで扱える自然災害の時空間情報が記録されていることを確認することを目的とした。武庫川下流域の西宮,宝塚,伊丹,尼崎の4市にある39の神社の766個の奉納物を調査した。その奉納物の,種類,奉納年,材質,記載内容,状態を調査した。奉納物の種類は,鳥居,狛犬,灯篭,手水舎,幟枠石,その他である。奉納年を示す和暦年を,西暦年に換算した。奉納物の材質は,岩石では花崗岩や砂岩や変成岩などを,金属ではステンレスや鉄などを,その他では木やコンクリートなどである。
神社が立地する地形は,多い順に自然堤防,段丘,砂州・浜堤なので,神社はその周囲より高い地形に立地する傾向がある。奉納物数は,江戸時代と第二次世界大戦の終戦直後は少なく,明治時代から第二次世界大戦までは極めて多く,戦後は少し多い。また戦後では1995年直後に奉納物数が突然増加する。これらの時代別にある傾向は,風化や破壊に伴う廃棄と更新,国威発揚に伴う祈願,都市化による改築や移転に要因がある。神社の景観観察により,今後,コンクリート製の社殿の増加,金属製の奉納物の増加,社叢林の減少,敷地の減少などの変化が予想される。また1995年兵庫県南部地震で被災した奉納物が,境内に保存されたり放置されたりする景観が多く観察できた。それらの奉納物は,転倒し破壊しやすかった灯篭や鳥居が多数を占める。それらを更新した多くの奉納物に,その地震被害からの復興が理由として記されている。したがって奉納物数の増加と自然災害との間にある時期の同時性は,因果関係を意味すると解釈される。この関係に基づき,GIS解析で奉納物の個数または割合を用いて,震災の帯をおおよそ推定できた。
本研究は以下のようにまとめられる。甚大な被災域では,神社奉納物に,GISで扱える自然災害の時空間記録が残されている。奉納物の文字が読み取れる期間内では,甚大な被災後の10年程度,奉納物数の増加することが確認できる。復旧期間に含まれる奉納物の分布より,自然災害の範囲を推定できる。本手法に基づき,神社の奉納物にある自然災害の潜在記録の確認を他地域で実施したい。