日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS11] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2022年5月23日(月) 13:45 〜 15:15 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、コンビーナ:内田 太郎(筑波大学)、苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、座長:苅谷 愛彦(専修大学文学部環境地理学科)、内田 太郎(筑波大学)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)

14:30 〜 14:45

[HDS11-04] 飛彈山脈北部,白馬大雪渓周辺における岩盤斜面の地形変化

*杉山 博崇1奈良間 千之2井上 公3 (1.新潟大学大学院自然科学研究科、2.新潟大学理学部フィールド科学人材育成プログラム、3.中部大学)


キーワード:落石、岩盤崩落、SfM、UAV、凍結融解

1.はじめに
岩盤崩落は,森林限界以上の高山帯における主要な地形形成プロセスの一つであるが,近年高山帯で増加する人間活動やインフラの影響もあり岩盤崩落事故がたびたび生じている.日本の高山帯では,赤石山脈や飛彈山脈南部において地形変化や土砂収支の実態解明の試みや(松岡ほか,2013),不安定斜面の挙動と気象要素の関係についての研究があるが(岩船,1996;西井・松岡,2012),飛彈山脈北部の多雪地帯における岩盤崩落の実態は明らかでない.
白馬大雪渓(以下,大雪渓)は,飛彈山脈北部,長野県白馬村の松川谷支流の北又入上流に存在する多年生雪渓である.白馬岳と杓子岳の両岩壁に挟まれた大雪渓では,岩壁からの落石や崩落により登山事故が高頻度で起きている(小森,2006;白馬大雪渓研究グループ,2008).しかしながら,高山帯の岩壁斜面は踏査が困難であることから,岩盤崩落現象を報告した研究はわずかである.さらに,多雪地域において積雪の影響や地質による崩落プロセスの違い,崩落が起きる地形場の特徴は十分に解明されていない.そこで本研究では,登山事故が多発する大雪渓を対象に,2015年~2021年の観測結果から岩盤斜面の崩落過程と崩落箇所の特徴を明らかにすることを試みた.
大雪渓は,後立山連峰の杓子岳と白馬岳の間の葱平モレーン直下から,3号雪渓合流部付近までの範囲に存在する多年性雪渓である.大雪渓を含む松川北股入は氷食谷であり,大雪渓上流の谷頭には葱平圏谷と杓子岳北圏谷が南北に向かいあっている(小疇ほか,1974).大雪渓周辺を構成する岩盤は,飛騨外縁帯の古生界・中生界,新第三紀の貫入岩類および未固結第四系からなる(中野ほか,2002).多雨・多雪の気候環境下にあり,凍結融解作用に起因する周氷河地形が発達する(相馬ほか,1979;岩田,1980).
3.研究手法
岩盤斜面の経年変化を調べるため,使用した画像は,2015年~2021年に取得したUAVとセスナの空撮画像,国土地理院や林野庁が取得した空中写真である.UAV空撮は,融雪により調査が可能になる2018年~2021年の6月~11月にかけて,UAV(Phantom4,Mavic 2 Pro)で実施した.崩落前後の形状変化の過程を捉えるため,空撮画像から作成した多時期の点群モデルを比較した.点群モデルの作成には,2次元の画像から3次元形状を特定するSfMソフト(ContextCapture)を用いた.岩盤斜面の凍結状態を把握するため,2014年~2016年にかけて,丸山(2750m),白馬山荘付近(2800m)で観測された地表面温度を使用した.
4.結果
火成岩質の杓子岳では,南北の両斜面において,下部斜面の崩落後,翌年以降に上部斜面が崩落するプロセスを確認した.UAV空撮により崩落斜面の一つを観察した結果,節理が密な箇所で削剥が進み,その上部の節理の疎な箇所が基部を失い不安定化することで崩落するプロセスであった.落石が頻発しやすい5~7月を除く,秋から春の凍結期間に1000m3以上の崩落が複数回生じていた.堆積岩質+火成岩質の白馬岳では,堆積岩域で上部の開口亀裂を伴う,重力変形による岩盤の不安定化に起因する崩落イベントを確認した.崩落が確認された谷頭部では上部クラックが確認された.杓子岳と白馬岳ともに雪がつもる場所では,大規模な崩落が生じていないことを確認した.
5.考察
火成岩質の杓子岳の南北両斜面において,下部斜面が崩落し,数年以内に上部斜面が崩落する傾向がみられた.このことから,杓子岳の岩盤斜面は一度崩れると翌年も崩れやすく,連続的に岩盤斜面が後退すると考えられる.一方,白馬岳側の堆積岩域では,崩落は一度きりの突発的なものであった.崩落斜面は上部に開口亀裂をともなう凸斜面という特徴があり,引張性の重力変形によって不安定になっていた可能性がある.大雪渓では,杓子岳側のみに毎年崖錐が形成されており,節理に富む火成岩質の杓子岳は,白馬岳の堆積岩質域に比べ凍結融解作用を受けやすく,崩落が連続的に生じやすいと考えられる.少なくとも杓子岳側においては,冬季における積雪や,前年までの崩落の有無で,危険度の高い斜面を推定できる可能性がある.