日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-GG 地理学

[H-GG01] 自然資源・環境に関する地球科学と社会科学の対話

2022年5月23日(月) 10:45 〜 12:15 105 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:古市 剛久(森林総合研究所)、コンビーナ:上田 元(一橋大学・大学院社会学研究科)、大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、コンビーナ:佐々木 達(宮城教育大学)、座長:大月 義徳(東北大学大学院理学研究科地学専攻環境地理学講座)、佐々木 達(宮城教育大学)

10:45 〜 11:00

[HGG01-06] ミャンマー・インレー湖における環境悪化要因の分析と住民主体の環境型環境改善手法の構築にかかる研究プロジェクト

★招待講演

*松丸 亮1岡本 郁子1、柴田 京子2 (1.東洋大学、2.特定非営利活動法人 地球市民の会)

キーワード:ミャンマー・インレー湖、水環境改善、住民主体のアプローチ

インレー湖はミャンマー国シャン州に位置する湖で、湖上住宅や伝統的な漁法で知られるミャンマーでも有数の観光地である。しかし近年、流域の荒廃、過剰な浮畑栽培、湖周辺からの生活排水などが要因と考えられる水質悪化が進んでいる。また、今後も観光客の増加が見込まれ、観光開発に起因する排水負荷も水環境悪化の要因となりうる。
 インレー湖は、生活の場のみならず観光資源としても重要であることから、その環境を保全する必要がある。
 水環境問題の解決には、水質目標等、各種の改善目標を設定し、それに向けたハード・ソフトの対策を多面的に実施していく必要がある。しかしながら、インレー湖に関しては、水質に関する信頼できるデータ、生活排水・汚水の量、水に起因する疾病など、水環境に影響を与える基本的なデータがない。さらに、湖を生活の場として利用している住民の環境意識などに関するデータも皆無に等しく、当地の自然環境や社会状況の実態に即した形での効果的な環境改善のための検討や提案ができる状況にはなかった。
 このような背景の下、東洋大学国際共生社会研究センターは、住民を主体としたアプローチでインレー湖の水環境保全・改善を目指す研究プロジェクトを2017年から3月から開始した。2017年4月からは、インレー湖周辺地域長年にわたり住民主体の活動を行っている「地球市民の会」と協働することで、三井物産環境基金からの3年間の研究資金を得て、実践的な研究活動を実施した。研究プロジェクトとしては現在も実施中である。

 研究プロジェクトの目的は、学際的な研究活動を通じ、住民を主体としたアプローチでのインレー湖の水環境保全・改善活動の最適解を導き出すことである。研究は以下の段階を踏んで実施している。
1.インレー湖の水環境汚染の状況(水質分布、季節変化など)を明らかにする。
2.インレー湖の環境改善にかかる住民意識を明らかにする。
3.インレー湖の環境改善に係る全体ビジョンおよび個別の改善目標を設定する。
4.インレー湖の環境改善対策にかかるハード・ソフト両面からの対策の代替案を作成し、目標達成のための最適解を提示する。
 目的の達成のため、2017年以降以下の活動を実施してきた。
 ・水質調査(雨季、乾季に複数回)
 ・気象・水文観測(気温、雨量、水位、流入河川流量など)
 ・経済・社会状況および住民の環境意識にかかる調査
 ・啓発ワークショップ(インレー湖の水質、上下流住民の交流など)
成果報告セミナー(現地政府職員、住民他ステークホルダーを対象)
 これまでの研究活動を通じ、インレー湖の水質の現況および水質形成機構は一定程度明らかになった。また、住民の環境意識などの基礎的データの収集は行えた。
 現在は、特に住民の環境意識などを基に、住民主体の環境改善対策にかかるいくつかの代替案の検討を行っているところである。

 インレー湖の環境に係る基礎データは多くなく、本研究プロジェクトで環境にかかる基礎データを提示できたこと、また、水質形成機構を学術的に示したことは非常に有益なものである。また、いまだ途上ではあるが、インレー湖流域に居住する住民の環境やインレー湖に対する意識が明らかになりつつあることは、効果的な対策アプローチを検討するうえで重要な成果である。さらに、学問分野を超えた研究活動により、住民参加型で実践的な環境改善手法を実証的に構築することができれば、同様の問題を抱える途上地域でのモデルともなりうる。

本研究プロジェクトの具体的な成果については、プロジェクトメンバーの発表を参照されたい。