10:00 〜 10:15
[HGM03-07] 日本列島前弧域の大地形と沈み込む海洋プレートの形状との関係
キーワード:大地形、スラブ形状、dislocation model
日本列島は複雑な地形に彩られているが、その成因の概略がプレートテクトニクス等に基づいて明確に理解されているものは、日高山脈の形成や伊豆弧の衝突、あるいは房総沖三重会合点の移動による本州弧の東西短縮など、比較的少数に留まっているのが現状と考えられる。
ところで、地球表面の地形と共に、沈み込む海洋プレートの形状に目を向けると、日高舟状海盆、関東平野、濃尾平野、紀伊水道、豊後水道などの日本列島の前弧域に分布する低地帯(あるいは沈降域)は、海溝の屈曲部あるいはスラブが尾根状に沈み込んでいる地域と良く対応していることに気が付く。
沈み込み帯の地形をモデル化する上では、一般に、海陸プレート間の相互作用をどのように表現するかが重要である。Matsu'ura & Sato (1989)は、変位の食い違い(dislocation)を海陸プレート間に与える「プレート沈み込みによるdislocation model」を開発した。同モデルは、プレート間カップリングの解析で標準的に用いられているSavage (1983)のback-slip model を定常沈み込みの寄与を含むように一般化したものである。このモデルによって計算された日本列島周辺の垂直変位速度は、長波長のフリーエア重力異常(テクトニクな力による上下変動に対応)パターンと非常に良く整合し(Hashimoto et al. 2004)、「島弧で高く、海溝で低く、外縁隆起帯で高い」という沈み込み帯の特徴的な地形についても、同モデルに基づいて物理的に明快に説明できる(Fukahata & Matsu'ura, 2016)
「プレート沈み込みによるdislocation model」を屈曲した海溝軸を持つプレート沈み込み帯に適用したところ、屈曲部の島弧側に顕著な沈降域が生じることが分かった。この機構により、日高舟状海盆や関東平野が形成されていると考えられる。前者は千島海溝と日本海溝の、後者は日本海溝と伊豆小笠原海溝の屈曲部に当たっている。更に、スラブが尾根状の形態で沈み込む際には、尾根の直上では沈降が尾根の脇では隆起が生じることが分かった。伊勢湾-敦賀湾の下ではフィリピン海スラブが顕著な尾根状の構造をもって沈み込んでいる。即ち、伊勢湾から敦賀湾に至る地域の沈降ならびに紀伊山地や三河高原・木曽山脈の隆起はこの機構により理解できる。豊後水道は、南海トラフと琉球海溝の屈曲部にフィリピン海スラブが尾根状の構造をもって沈み込むという複合的な要素を持っている。このような状況設定で計算すると、屈曲部の奥に沈降域が細長く伸びるという結果が得られる。豊後水道から広島湾に至る沈降域は、この機構により説明できる。日本周辺域以外でも、本モデルはもちろん適用可能である。カスカディアや南米チリ北端部では、海溝が緩く島弧側に凸に屈曲しているが、そこでも計算結果で示されたように、海溝周辺の沈降域が島弧側に張り出している。
なお、屈曲部周辺の島弧側に顕著な沈降が生じるという計算結果は、変位の食い違い理論(dislocation theory)とテーブルクロスのアナロジーを組み合わせることで理解できる。まず、沈み込むスラブをテーブルクロスに見立てることで、屈曲部を持つ海溝軸から海洋プレートが沈み込むと、屈曲部周辺でその沈み込むプレートに質量過剰が生じることが分かる。そして、海陸プレート間にdislocation が与えられていることにより,下盤側(スラブ)の質量過剰に対応して上盤(島弧)側プレートでは逆に質量欠損が生じるため、屈曲部周辺の島弧側で沈降が生じると考えられる。また、海溝が海側に凸の屈曲を持つ場合には、屈曲部周辺に逆に隆起が生じる。そのため、尾根の両脇は隆起帯となるのである。
ところで、地球表面の地形と共に、沈み込む海洋プレートの形状に目を向けると、日高舟状海盆、関東平野、濃尾平野、紀伊水道、豊後水道などの日本列島の前弧域に分布する低地帯(あるいは沈降域)は、海溝の屈曲部あるいはスラブが尾根状に沈み込んでいる地域と良く対応していることに気が付く。
沈み込み帯の地形をモデル化する上では、一般に、海陸プレート間の相互作用をどのように表現するかが重要である。Matsu'ura & Sato (1989)は、変位の食い違い(dislocation)を海陸プレート間に与える「プレート沈み込みによるdislocation model」を開発した。同モデルは、プレート間カップリングの解析で標準的に用いられているSavage (1983)のback-slip model を定常沈み込みの寄与を含むように一般化したものである。このモデルによって計算された日本列島周辺の垂直変位速度は、長波長のフリーエア重力異常(テクトニクな力による上下変動に対応)パターンと非常に良く整合し(Hashimoto et al. 2004)、「島弧で高く、海溝で低く、外縁隆起帯で高い」という沈み込み帯の特徴的な地形についても、同モデルに基づいて物理的に明快に説明できる(Fukahata & Matsu'ura, 2016)
「プレート沈み込みによるdislocation model」を屈曲した海溝軸を持つプレート沈み込み帯に適用したところ、屈曲部の島弧側に顕著な沈降域が生じることが分かった。この機構により、日高舟状海盆や関東平野が形成されていると考えられる。前者は千島海溝と日本海溝の、後者は日本海溝と伊豆小笠原海溝の屈曲部に当たっている。更に、スラブが尾根状の形態で沈み込む際には、尾根の直上では沈降が尾根の脇では隆起が生じることが分かった。伊勢湾-敦賀湾の下ではフィリピン海スラブが顕著な尾根状の構造をもって沈み込んでいる。即ち、伊勢湾から敦賀湾に至る地域の沈降ならびに紀伊山地や三河高原・木曽山脈の隆起はこの機構により理解できる。豊後水道は、南海トラフと琉球海溝の屈曲部にフィリピン海スラブが尾根状の構造をもって沈み込むという複合的な要素を持っている。このような状況設定で計算すると、屈曲部の奥に沈降域が細長く伸びるという結果が得られる。豊後水道から広島湾に至る沈降域は、この機構により説明できる。日本周辺域以外でも、本モデルはもちろん適用可能である。カスカディアや南米チリ北端部では、海溝が緩く島弧側に凸に屈曲しているが、そこでも計算結果で示されたように、海溝周辺の沈降域が島弧側に張り出している。
なお、屈曲部周辺の島弧側に顕著な沈降が生じるという計算結果は、変位の食い違い理論(dislocation theory)とテーブルクロスのアナロジーを組み合わせることで理解できる。まず、沈み込むスラブをテーブルクロスに見立てることで、屈曲部を持つ海溝軸から海洋プレートが沈み込むと、屈曲部周辺でその沈み込むプレートに質量過剰が生じることが分かる。そして、海陸プレート間にdislocation が与えられていることにより,下盤側(スラブ)の質量過剰に対応して上盤(島弧)側プレートでは逆に質量欠損が生じるため、屈曲部周辺の島弧側で沈降が生じると考えられる。また、海溝が海側に凸の屈曲を持つ場合には、屈曲部周辺に逆に隆起が生じる。そのため、尾根の両脇は隆起帯となるのである。