日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-QR 第四紀学

[H-QR04] 第四紀:ヒトと環境系の時系列ダイナミクス

2022年5月30日(月) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (12) (Ch.12)

コンビーナ:山田 和芳(早稲田大学)、コンビーナ:田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、コンビーナ:卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)、座長:山田 和芳(早稲田大学人間科学学術院)、堀 和明(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、田村 亨(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、卜部 厚志(新潟大学災害・復興科学研究所)

11:00 〜 13:00

[HQR04-P02] 埼玉県,加須低地西部における沖積低地の地形形成過程―テフラ分析に基づく検討―

*村田 昌則1高橋 尚志2青木 かおり1佐藤 潤一3鈴木 毅彦1,4 (1.東京都立大学火山災害研究センター、2.東北大学災害科学国際研究所、3.東京都立大学大学院都市環境科学研究科、4.東京都立大学都市環境学部)

キーワード:加須低地、火山噴出物、埼玉県

関東平野中央部には,加須低地,中川低地,東京低地など沖積低地が広く発達する。それらの地形形成には,地殻変動や海水準変動などのほか,江戸時代初めの東遷事業以前に流下していた利根川による土砂の運搬・堆積が大きく関わっている。利根川上流部に位置する浅間山や榛名山など北関東の火山はこれまでたびたび噴火を繰り返してきており,噴火によってもたらされた火山噴出物が再移動することによって,利根川下流域の沖積低地の形成に大きな影響を与えてきた。また,火山噴出物の再移動は災害の要因ともなる。例えば1783年の浅間天明噴火の際に発生した天明泥流は江戸まで流れ下ったことが知られている(井上,2009など)。われわれはこれまで埼玉県東部の元荒川沿いの3地点(蓮田市,さいたま市岩槻区,越谷市)において,堆積物中のテフラ分析および放射性炭素年代による地形発達過程の検討を行ってきた(鈴木ほか,2018;2019,村田ほか,2021a;2021b)。今回,それらの地点の上流にあたる加須低地西部の羽生市下新郷(羽生市立新郷第二小学校敷地内)においてボーリング調査を実施した。
加須低地には,河道変遷が繰り返された利根川の河道跡に沿って自然堤防が幾筋か発達する。掘削地点は加須低地西部の微高地(自然堤防)に位置し,河道跡および自然堤防の分布から,西へと流下する会の川筋と,南へと流下する星川(見沼代用水)筋および新川用水筋との分岐点付近にあたる。ボーリング掘削地点の標高はおよそ18.0 m,掘削深度は12 mである。ボーリングコアの岩相観察から本地点では,地表から深度6.7 mまでは中粒砂を主体とする堆積物からなる。これらの多くは自然堤防を構成する堆積物であると判断できる。深度6.7 m以深は腐植質シルトおよびシルトを主体とする堆積物からなり,深度11.3-10.0 mには,細礫混じりの砂層を挟む。腐植質シルト直上の深度6.5 mの砂層中から最大粒径10 mmの円磨した白色軽石が炭化した植物片とともに濃集し,その上位には白色軽石が散在する。これらの白色軽石は,ホルンブレンドおよび斜方輝石を含むことから古墳時代に噴出した榛名火山起源のテフラである可能性が高い。
これらの堆積物に基づくと,加須低地西部の羽生市下新郷では榛名火山の噴火による利根川上流部からの土砂供給の増加以前は後背湿地であったが,急速に砂が堆積して自然堤防が形成された可能性が高い。発表では,ボーリングコアから見出されたテフラの記載岩石学的特性に基づくテフラ対比,および放射性炭素年代の測定結果をあわせて報告する予定である。今後,加須低地西部における沖積低地の堆積物の年代と古環境の復元から地形発達過程を検討し,周辺地域と合わせて関東平野中央部の沖積低地における火山噴出物の再移動による時間的・空間的影響を評価することを目指す。