日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2022年5月27日(金) 15:30 〜 17:00 201B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、コンビーナ:Ki-Cheol SHIN(総合地球環境学研究所)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、座長:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)

16:45 〜 17:00

[HTT18-12] 骨アパタイトリン酸塩の酸素同位体比を用いたガン類骨の生息地推定と7000年前の中国の家禽ガチョウの検討

*板橋 悠1、江田 真毅2、菊地 大樹3、孫  国平4、許  開軒2、覚張 隆史5、米田 穣6、蒋  楽平4、楊  国梅7、中村 慎一5 (1.筑波大学、2.北海道大学、3.蘭州大学、4.浙江省文物考古研究所、5.金沢大学、6.東京大学、7.蕭山博物館)

キーワード:酸素同位体、渡り鳥、渡り鳥の追跡調査、ガチョウ家禽化、リン酸塩

生態学調査では酸素同位体比を利用した渡り鳥の移動復元が行われている。動物の体組織に含まれる酸素は主に飲み水および食物に含まれる水に由来しているため、体組織の酸素同位体比は摂取した水の酸素同位体比と高い相関関係がある。このため、体組織の酸素同位体比と地球上の表層水の酸素同位体比の分布を比較することで目的の動物の生息地域を推定可能であり、渡り鳥のような長距離移動を行う種の場合には捕獲された地域とは異なる生息地を特定するトレーサーとして利用可能である。現代試料では羽が測定部位としてよく利用されているが、古代試料では遺跡から発見される骨の炭酸塩やリン酸塩が利用されることが多い。
本研究が対象とする鳥のガン類は、野生では高緯度のシベリアで繁殖し越冬地である中国や日本に飛来する渡り鳥である。そのガン類を家禽化したものがガチョウであり、飛行能力をほとんど失って渡りをすることはない。本研究ではガン類の越冬地である中国・長江下流域の約7000年前の稲作農耕集落,田螺山遺跡から出土した鳥のガン類の骨でリン酸塩の酸素同位体比を測定し、ガン類個体が渡りを行っていた渡り鳥か遺跡が所在する浙江省周辺に周年で生息していた留鳥かの識別を試みた。
その結果、田螺山遺跡出土ガン類骨には繁殖地であるシベリアなどの高緯度地域の表層水に相当する酸素同位体比を持つ個体の他に、繁殖地と越冬地の中間的な酸素同位体比を持つ個体、および越冬地である浙江省周辺に相当する値の個体が多数含まれることが明らかとなった。繁殖地に相当する値の個体は越冬地に飛来したばかりの若齢個体、中間的な値の個体は何度も渡りを経験した成鳥個体、そして越冬地の値を示した個体は渡りを行っていない留鳥であったと考えられる。
渡りを行う野生ガン類に対し、越冬地の浙江省に周年で生息していたこれらの留鳥個体は、ヒトの管理化にある家禽であった可能性が高い。これらが家禽であった場合には現状での最古の家禽ニワトリよりも早い家禽化の証拠となり、世界最古の家禽はニワトリではなくガチョウである可能性を示唆するものとなる。