日本地球惑星科学連合2022年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-TT 計測技術・研究手法

[H-TT18] 環境トレーサビリティ手法の開発と適用

2022年5月29日(日) 11:00 〜 13:00 オンラインポスターZoom会場 (12) (Ch.12)

コンビーナ:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、コンビーナ:Ki-Cheol SHIN(総合地球環境学研究所)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、座長:陀安 一郎(総合地球環境学研究所)、SHIN Ki-Cheol(総合地球環境学研究所)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)

11:00 〜 13:00

[HTT18-P05] 日本の森林土壌およびリター層に含まれる鉛同位体比の分布特性

*浦川 梨恵子1太田 民久2SHIN Ki-Cheol3佐瀬 裕之1柴田 英昭4 (1.アジア大気汚染研究センター、2.富山大学 学術研究部理学系、3.総合地球環境学研究所、4.北海道大学北方生物圏フィールド科学センター)

キーワード:森林土壌、鉛同位体比、鉛濃度、有機物層、広域調査、要因解析

人間活動により大気中に放出された鉛は土壌の吸着作用によって長期間保存されていると考えられ、濃度と安定同位体比から大気沈着の量と起源を推定できる可能性がある。本研究では、土壌中の鉛の濃度と同位体比の地理分布にどのような要因が影響しているのかを明らかにすることを目的として、日本全国の森林から採取されたリター層(Oa層、44ヶ所)と鉱質土層(0-10, 10-20 cm深、59ヶ所)を分析した。
リターは過酸化水素で湿式灰化し、土壌はEDTA溶液で可給態Pbを抽出した。リター分解液および土壌抽出液中の鉛濃度はICP-MSで分析した。鉛を200 ng含む分解液および抽出液を陰イオン交換樹脂に通過させて精製し、同位体比をMC-ICP-MSで分析した。環境要因として各地点の緯度経度、平均気温・降水量、地質鉛濃度(今井ら, 2004; 産総研地質調査総合センター)、冬季降水量割合[年間降水量に対する冬季降水量(12-2月)の割合]、土壌およびリター層の化学性[全炭素・窒素濃度、C/N、土壌pH(H2O)、(Urakawa et al., 2015)]等のデータを用い、PLS回帰分析で要因解析を行った。
鉛濃度の平均値±標準偏差はリターで9.7±8.8 mg kg-1、土壌0-10 cmで10.7±10.5 mg kg-1、土壌10-20 cmで5.5±5.4 mg kg-1だった。一方、206Pb/207Pbはリターで1.1617±0.0052、土壌0-10 cmで1.1674±0.0070、土壌10-20 cmで1.1768±0.0092、208Pb/207Pbはリターで2.4468±0.0068、土壌0-10 cmで2.4554±0.0099、土壌10-20 cmで2.4667±0.0113であり、同一地点で比較すると同位体比はおおむね、リター<土壌0-10 cm<土壌10-20 cmとなり、深くなるにつれて高くなる傾向があった。
PLS回帰分析の結果、濃度に影響が大きい要因としては、リターで冬季降水量割合、土壌でpH(H2O)だった。同位体比に影響が大きい要因としては、リターと土壌ともに冬季降水量割合だった。これらのことから、鉛濃度と同位体比の地理的分布には、越境性の大気汚染物質の流入が影響を及ぼしていると推察された。

引用文献
今井登, 寺島滋, 太田充恒ら (2004) 日本の地球化学図
産業総合研究所 地質調査総合センター, 海と陸の地球化学図, https://gbank.gsj.jp/geochemmap/index.html
Urakawa R, Ohte N, Shibata H, et al (2015) Biogeochemical nitrogen properties of forest soils in the Japanese archipelago. Ecol Res 30:1–2.